「そうすれば、生産量が増える。米価も低下して、国民の家計は助かる。米価下落の影響を受ける大規模な米農家には下落ぶんを政府が『直接支払い』をして支援すればいい」(同)
直接支払いは米国やEUが主要穀物に対して行っている制度のことだ。直接支払いの予算は米の転作補助金(3500億円)を廃止することでねん出する。
「生産量が増えて米価が下がれば、輸出競争力も増す。国内の需給が多少変動しても輸出量で調整できるでしょう」(同)
備蓄米制度の見直し必要
昨年、今年と、米が品薄なのに政府備蓄米が放出されない理由を、「米価の下落を恐れているからではないか」と、山下さんは推測する。
農業ジャーナリストの松平尚也さんは、米の供給不安の解決策として、生産調整の見直しのほか、「備蓄米の制度を利用しやすいように整えることが必要」と語る。
備蓄米が放出されないのは、「食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)が柔軟性を欠くことが大きい」と考える。
食糧法第2条には「政府は米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営を図るものとする」という内容がある。しかし、「備蓄」を規定する同第3条には「米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備え、必要な数量の米穀を在庫として保有すること」と記されている。
昨年産の米の作況(生産量)は「平年並み」だった。そのため、「第3条に該当しなかった」(松平さん、以下同)。
仮に農水省の審議会で備蓄米の放出を決めるにしても、協議には1カ月以上かかるという。
「食糧法の制度の中身も運用も、米不足の現状にまったく対応できていません」
さらに、米価の高騰により米農家が恩恵を受けているわけではないという。
「米の代金は出荷時に『概算金』という前払い金としてJAから支払われています。肥料代や燃料代の値上がりのコストが上乗せされていないので、米農家の経営は非常に厳しい」
石破首相がどう動くか
米を巡り、消費者も生産者も苦しい状況はまだまだ続くのか。
松平さんは石破茂新首相後の米政策に注目する。
「石破氏は米の生産調整の見直しに言及してきました。生産調整をやめて米価が下がれば、米農家への直接支払いや戸別所得補償といった支援が必要になります。自民党内をどう調整できるかがかぎになると思います」
米を巡る問題は食料安全保障や地方再生にも直結する。石破新内閣には、米の問題の抜本的な改革を期待したい。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)