本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】

 圧力鍋さん。モヤモヤしているんですね。「彼との関係をできれば再構築したい」と書かれていますが、どうも僕には、ほがらかなアドバイスができそうにありません。

 「どうアプローチするのがよさそうでしょうか」と書かれていますが、圧力鍋さんは、僕が考えるアプローチをすでにしていると思います。

 彼が一方的に自分の話を始めた時には、ちゃんと「最後まで話聞いてくれない!?」と言ったんですよね。「聞き方話し方についてクレームを言ったことがある」のに、友人はなかなか変わらないんですよね。

 圧力鍋さん。ちょっと厳しいことを言いますね。

 僕は、友人関係は変わっていくものだと思っています。

 それは、その時その時に、お互いの関心が変わっていくからです。

 圧力鍋さんは、大学生の時に友人と知り合ったのですね。人にもよるでしょうが、大学生はまだまだ「自分そのもの」があいまいで、いろんな可能性や試行錯誤を続けている時期だと思います。

 卒業し、社会にもまれ、ゆっくりと大人になるにつれて、「自分なりの考え方」が明確になっていくのだと思います。

 自分なりの考え方、ものの見方を確立するのが大人だとも言えます。

 僕からすると、圧力鍋さんと友人は、お互いがまだ未熟というか未確立というか可能性のかたまりの時期に出会って、約10年の間に、それぞれの自我が明確になってきたのだと思えるのです。

 大学時代、10年前だと、友人も「自分が話したいこと」にそれほど固執しなかったのかもしれません。自分自身にも自信がないし、知識も確立されてないので、圧力鍋さんの言葉を遮って話す意欲も確信も、なかったのではないでしょうか。

 それが、だんだんと、自分の言いたいことが明確になってきたので、圧力鍋さんの言葉を無視して話すようになったと感じます。

 思想的なことも同じですね。ぼんやりとした感覚が、時間と共に明確になるのは自然なことです。圧力鍋さんからすると、大学時代からの思想がエスカレートしたと感じるのでしょうが、友人からすれば、徐々にビジョンが確立されたということだと思います。

「火に油を注ぐかのようにまくしたてられました」と書かれていますが、友人はこの10年間で確信が強まったということだと思います。

 幼なじみと再会した時に、お互いがまったく違う思想的立場にたっていた、ということは珍しくないでしょう。それでも友達でいられるのは、お互いが自分の思想的立場をまったく口にしないか、相手に押しつけない場合だけでしょう。

 ただし、これはかなり難しいことです。物価高も子供の教育問題も円安も、間違いなく思想や政治とつながっています。日本では、アーティストが政治的な発言(特に反体制的なこと)をすると、嫌がったり反発する人達がいますが、ほとんどの日常は思想や政治とつながっていると僕は思っています。思想や政治と無縁な「中立」なんていう安全地帯は、めったにないと思っているのです。

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