※写真はイメージです。本文とは関係ありません(gettyimages)

 思想的立場が違っていても、それを頻繁に口にしない、押しつけない、自分こそが真実と正義を語っているのだと善意から強制しないというルールを守らなければ、友人関係を続けることは難しいと思います。

 ですが、これはかなり大人の態度が必要で、できる人は、本当に少ないと思います。人は、思想(や宗教)を信じれば信じるほど、相手に伝えたいと思ってしまいますからね。

 じゃあ、友情は長続きしないのかと圧力鍋さんは思いましたか?

 僕は「共通の趣味」がつなぐ友情は続く可能性があると思っています。釣り仲間とかツーリング仲間、野球チーム仲間など、話題が明確になっていたら、思想的に対立する可能性が低いと思えるからです。

 また、二人の考え方がどんなに違っても、例えば「釣り」を語る時は、話題は明確に絞れます。二人の社会的立場がどんなに変わっても、「釣り」を語る時は、いつも共通点を確認できるのです。

 さて、圧力鍋さん。大胆な質問をしますね。

 圧力鍋さんは、長年の友人の主に二つの態度、「人の話を聞かない」「自分の思想を熱く語る」ことにモヤモヤしていますが、友人を続けたいと思っているのは、その二つの点を差し置いても、彼を素晴らしいと思っているからですか?

 長年友人であるという「事実」だけではなく、これからも友人を続けたいと思う彼の長所はなんでしょうか?

 もし、「こんな素晴らしいことがある」「こんなところが大好きだ」というものがあるなら、僕のアドバイスは、圧力鍋さんがやっていることを、粘り強く繰り返すことだけです。

「彼との関係をできれば再構築」する方法は、「僕の話も聞いてくれない?」「ごめん。その話に興味ないんだ」「君の思想的信念の話題は避けよう」と言い続けるしかないと思います。

 友人がいい方向に変わる可能性は高くないかもしれませんが、それ以上の長所があるのでしたら、やり続ける意味はあると思います。

 でも、もし、「お互いが同じ時間を共有してきた」ということしか長所がないとしたら、僕のアドバイスは変わってきます。

 それは、こんな質問の形になります。

 もし、今、彼と出会っていたら、友人になっていましたか?

 圧力鍋さんの話を一方的に遮って話す彼を受け入れましたか?

 共感できない思想を熱く語る彼を受け入れましたか?

 もし、今、出会っていたら友人にはならなかったと思えるのなら、哀しいですが、圧力鍋さんと彼の関係は、そろそろ終わりを迎える時期だということでしょう。

 それは、どちらかが悪かったとか、誰の責任とかいう問題ではなく、お互いが時間と共に別々の方向に進んだということです。

 圧力鍋さん。僕はこんなふうに考えます。どうですか?

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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