鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
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 古くからの友人に直してほしいところを伝えたが、聞く耳を持ってもらえなかったという29歳男性。友人と話すと、別れ際には疲弊してしまうほどモヤモヤしているという。そんな男性に、鴻上尚史が贈った「友人関係は変わっていくもの」の真意とは。

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【相談238】

 長年の友人にどうしても直してほしいところがありますが、聞く耳を持ってくれません(29歳 男性 圧力鍋)

 長年の付き合いの友人に、嫌で直してほしいところをどうやって切り出して伝えればいいかを悩んでおります。

 互いに大学生からの付き合いで、互いの彼女の変遷を見届けたり、向こうの婚姻届に付き添ったくらいに仲がいい友人です。その分、今まで感じたモヤモヤをどう伝えるか、それを伝えられるような雰囲気にどう持っていくかがわからず悩んでおります。嫌なところでいうと、あまり私の話を聞いてくれていない、向こうがしたい話を永遠とされていると感じることがあります。例で言うと、「最近読んだ本で面白いことある?」と聞かれ、「『金・銀・銅の日本史』って本が面白くて…」と話している途中で「金の3つの特徴って知ってる!?」と、彼が話したい話を突っ込まれがちです。このときはすぐに「最後まで話聞いてくれない!?」と返せたのですが、その後もまあ何度か話を聞いてくれている実感が持てないことが多いです。また、超ひも理論やら量子力学など興味が持てない話を永遠とされたりと、別れ際には疲弊してしまっている自分がいることに気づきました。

 そして、もう一つ嫌で厄介なのは、ときどき思想が怖いことがあります。二人で読んでる本を見せ合ったとき、向こうは戦場で負傷した兵士の治療法というマニアックなものを読んでおりました。「興味あるの?」「万が一のために」「ん? いやないでしょう」とやりとりすると、「俺は本気であると思っている」と言ってきますが、その時の表情がかなり怖いのです。あとは、GAFAが日本をどんどん侵食してくる、などと熱弁されることもあります。陰謀論のような空想さはないのですが、それに近い怖さがあり、それを語っているときの表情が怖いのです。昔から「日本が破滅するところを見てみたい」と言っており、当時はまあ若気の至りかなと流していたのですが、いまだにそれがむしろ拍車をかけているので隣にいる自分としてはつらいところがあります。

 何度かアプローチしたのですが、頑固なところもあります。一度聞き方話し方についてクレームを言ったことがあるのですが、聞く耳を持たず進められてしまい、思想についてはむしろ火に油を注ぐかのようにまくしたてられました。彼との関係をできれば再構築したいのですが、どうアプローチするのがよさそうでしょうか。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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