1965( 昭和40) 年、30歳のころの美輪さん。ただ街角で腰かけている姿でも目を引いてしまう、無二の存在感を感じる一枚だ。60 年前とはとても思えない、時代を超えたファッションも印象的。提供/朝日新聞社

 健康的な精神を保つことで、心が「感情」に支配されることなく、「理性」で考えることができるようになります。理性で考えることができれば、家族やご近所さんとの対人関係の問題、健康不安、経済不安といった目の前の問題を解決する知恵も生まれてきます。これが「理知」です。理知によって答えが見いだせるだけでなく、感情に支配されることなく、精神的に余裕が生まれてくるはずです。

「目に見えるものは見なさんな」

 2020年のコロナ禍以降、戦争や物価高、凶悪犯罪や高齢者を狙った詐欺事件も後を絶ちません。不安定で困難な世の中を乗り切るための言葉が、「目に見えるものは見ず、見えないものを見よ」です。

 人を見るとき、着ているものや容姿・容貌、年齢や性別、国籍、肩書や職業などで判断してはいけないということです。高級なスーツに身を包んでいても、その人の人格が優れているか否かは別問題です。どんなに肩書が立派で高級品を身にまとっていても、下品な振る舞いをする人はいますし、私はそういう人をたくさん見てきました。

 人間性というものは、決して見た目だけではわかりません。上っ面に惑わされることなく、その人の心や魂を見ることが大切です。世の中には善人もいれば悪人もいます。人にだまされたり、思わぬトラブルに巻き込まれたりしないよう、人や物事の表面を見るのではなく、心や魂を見ることを日頃から習慣化してください。

 最初は難しいと感じるかもしれません。それでも続けていくうちに、表面的に目に入ることは全体の一部にすぎないことにきっと気づくはずです。そうした心眼をもつことで、自身も下品な振る舞いをしない人間になり、自らを救うことになるのです。

(構成・文/山下 隆)

みわ・あきひろ/1935(昭和10)年、長崎市生まれ。歌手、俳優、演出家。16歳でプロ歌手としてデビューし、「メケ・メケ」「ヨイトマケの唄」が大ヒット。その美貌とファッションで世間を魅了した。俳優として寺山修司の「青森縣のせむし男」「毛皮のマリー」、三島由紀夫と組んだ「黒蜥蝪」ほか数多くの作品に出演。以後、演劇・リサイタル・テレビ・ラジオ・講演活動などで幅広く活動。『紫の履歴書 新装版』(水書坊)、『楽に生きるための人生相談』(朝日新聞出版)など著書多数。2024年6月には『私の人生論 目に見えるものは見なさんな』(毎日新聞出版)を上梓。差別や偏見に屈することなく、果敢に道を切り開いてきた美輪さんが、生き方、人間関係、教育、仕事、政治、経済、社会問題、国際情勢、戦争など豊富な人生経験をもとに存分に語り尽くす、今こそ伝えたい渾身のメッセージが詰まった一冊となっている。

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