(撮影/写真映像部・東川哲也)

──ネットワーク維持の観点からも、鉄道は簡単につぶしてはいけないと感じます。

 自然災害だけでなく、仮に原発がミサイル攻撃などでダメージを受け大勢の住民を避難させるというようなことになれば、車だと大渋滞になるので鉄道による避難のほうが合理的です。また、いわゆる有事の際に戦車や弾薬を運ぶのは、一義的には鉄道です。それらをどう評価するか。そうした議論は、あまりなされていない気がします。

──鉄道を立て直すために、日本でも上下分離方式の採用例は増えています。しかし、自治体の負担が大きすぎてできないという声も聞きます。

 そうだと思います。ただでさえ、災害多発地帯は過疎地が多く、財政力が脆弱であるのに、鉄道を維持したかったら自己負担しろというのでは、とても持ち切れないということがあるわけです。

 しかし、鉄道がネットワークである点に着目するならば、それは被災した自治体の負担のみで賄うべきなんだろうか。裨益(ひえき)する地域全体で負担してもいいのでは、という理屈は成り立つんだろうと思います。

──鉄道が被災した場合は原則、鉄道事業者が全額復旧経費を負担し、その後の維持運営も行うことになっています。そうしたスキームを変えることも必要では?

 そうですね。ただ一方で、被災する前からほぼニーズがなく、1日に数人しか乗らないような路線で、どう見てもバスで代替した方がいいという地域はあります。公共交通の全体像を考えた上であれば、バスへの置き換えも私は否定しません。

乗りたくなる鉄道に

──鉄道の未来を考えた時、これからはどのような鉄道の在り方が望まれるでしょう。

 まずは乗りたくなる鉄道にしていくことです。それは、国ではなく鉄道事業者の役割でしょう。千葉の銚子電鉄などのように、ぬれ煎を考えたりイベント列車を走らせたり、経営者が努力している鉄道は元気です。加えて、その鉄道のある地域全体の魅力を高めるのは自治体の責務です。高齢化が進み、CO2(二酸化炭素)を削減しなければいけない時代に、鉄道が果たすべき役割は何なのか、議論を深める時に来ています。

(構成/編集部・野村昌二)

AERA 2024年2月26日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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