災害ごみを運ぶ漁師たち(朝日新書『8がけ社会』より) (c)朝日新聞社
災害ごみを運ぶ漁師たち(朝日新書『8がけ社会』より) (c)朝日新聞社
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 様々な業界で「人手が足りない」と悲鳴が上がっている。2040年に現役世代が今の2割以上減少する「8がけ社会」がやってくると予測される今、解決する手はあるのか。労働力が急減している各地の実態に迫った「朝日新聞」大人気連載を書籍化した『8がけ社会』(朝日新書)では、自然な人口減少だけでなく、震災などの災害で人手が失われていく現状を、24年1月に能登半島地震に見舞われた現場で取材している。その一部を抜粋・再編集して紹介する。

震災で従業員が半減

「もう帰ってこないだろう」

 石川県珠洲市の建設会社長、山下寿成さん(55)は、辞めていった従業員たちを思い浮かべながら、そう語った。

 地震が起きて2カ月で、社員は15人から7人に減った。

 金沢に2次避難している最若手の30代も退社した。断水が続く中、幼い子どもを連れて避難所生活を送るのは限界として珠洲を離れた。

 社員が半減したが、仕事は山のように増えた。

 発災直後から優先してきたのは、道路の復旧だ。道路をふさぐ土砂や住宅を自前の重機で撤去する。亀裂やひび割れは埋めたり補修したりしていく。

 市内には、震災から3カ月近く経っても応急手当ての必要な道路が無数にあるが、受けられる仕事には限りがある。

 震災前は毎日3〜4現場をかけ持ちしていたが、いまは二つが限界だ。

「地域の生活道路から田んぼまで整備できるのは地元の建設業者だけ。復旧工事は急がないといけないが、私も従業員も被災者で休みも必要。圧倒的に人手が足りない」

 道路の補修や被災した住宅の解体、河川や港湾、農地の修復、災害ごみの運搬……。県や市町、業界団体から地元の建設会社に要請される仕事はひっきりなしだ。

 幹線道路の復旧や仮設住宅の設置のために県内外から多くの業者が被災地入りしているが、生活に直結した作業の多くは、地元業者が担うことになる。ただ、それに応じるマンパワーを確保できず、復旧は遅れていく。

震災前から始まっていた人手不足

 仕事の急増と働き手の急減をもたらしたのは震災だが、人手不足そのものは震災前から始まっていた。

 国勢調査によれば、この地域の2020年の建設業の就業者数は2804人。それまでの15年間で約2千人も減り、2005年の就業者数の「6がけ」(6割)になった。

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