朝日新聞取材班『8がけ社会 ――消える労働者 朽ちるインフラ』(朝日新書)
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 震災で社員が半減した山下さんの会社も、30年前には60人の社員がいた。近年は毎年のように定年退職が出る一方、募集をかけても若手は入らなかった。4分の1の15人になった震災前の社員も、70代や同業他社の定年退職者をアルバイトで雇うなどして何とか確保した。

 そこに震災が追い打ちをかけた。輪島市など3市町の建設会社でつくる鳳輪建設業協会によると、53ある会員企業で働く人の数は「8〜9割になった」。珠洲建設業協会でも、「会員企業の総従業員約250人が3割ほど減ったのではないか」という。若い世代の定着のために、どのような手を打てるか

復旧工事は10年以上続く

 人口流出は能登半島全体の課題だが、あらゆる業種で人手が足りないわけではない。石川労働局によると、震災で営業できなくなった宿泊や飲食などの業種の求人は低水準で、離職者が働き口を探している。だからといって、他業種の人材が土木工事の即戦力になるわけではない。

 輪島市では漁に出られない漁師を建設会社が臨時に雇う動きがある。だが、仕事の内容は災害ごみの収集運搬で、技術や安全の観点から工事現場に入ることは難しい。とりわけ現場監督を務められる資格者が足りず、作業員の頭数が増えても受けられない仕事は多い。

 山下さんの悩みは根深い。復旧は急ぎたい。だが、被災しながら仕事を続ける従業員に負担をかけすぎるわけにもいかない。

「1週間先の工事の人繰りを考えるだけで精いっぱい。復旧工事は10年以上続くだろう。そんな先まで誰が工事を担うのか。まったく先が見通せない」

 インフラの整備や補修を現場で支える地元の建設業界は「地域の守り手」を自負する。輪島や珠洲では、そうした地域における重要性や価値を前面に出して地元高校に向けた人材確保のための広報に力を入れてきた。

一度は使命感を抱いたものの…都市部へ流れる若者

 だが、そうした「使命」に共感していったんは業界に入っても、5年ほど働いて技術や資格を身につけると、金沢をはじめとする都市部へ転職していくケースも多い。

「金沢のほうが給料がいい」
「能登には娯楽がない」
「同年代の友人がいない」

 地元の建設会社長たちは、能登を去っていく20代のこんな声を聞いてきた。

 仕事の魅力や待遇ではなく、若い世代がこの地域にこだわり、暮らし続けようと思えるには、どのような手を打てるか。

 地元の業界関係者に尋ねて回った。自信なげに、「賃金が上がれば」「大型商業施設ができれば」と答える人はいたが、明瞭に「解」を語る人とは出会えなかった。

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