朝日新聞取材班『8がけ社会 ――消える労働者 朽ちるインフラ』(朝日新書)
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 連載では、ロスジェネ世代を非正規雇用へと追い込んだ時期について、「人口減少を緩和できたかもしれない三つの分岐点の最後の一つ」と指摘した。

 しかし、人口問題に長年関わってきた元厚生労働省幹部は、こう語った。

「最大の危機かつ最後のチャンスは、ロスジェネを生んだ時期だった。女性が男性並みに働くことを社会は受け入れず、非正規雇用を黙認した」

 ロスジェネ世代の女性たちは、結婚子育ての適齢期にその力を奪われ、出生率の低下につながった。

「当時社会を動かしていた人たちは『どうにかなるだろう』と思っていたんでしょうね」と女性はつぶやいた。連載では約40年後、未婚・離別の単身女性の約半数が、老後に生活保護レベル以下の収入になるとの予測も紹介した。この女性も年を重ねるごとに「生きていくためのお金が足りるのか」と不安が増すという。

「女性はこうあるべきだ」という固定観念をずっと感じてきた。「なぜ結婚しないの」「まだ(結婚や出産は)いけるでしょ」と聞かれることがいまもある。「上の世代がそう思い、社会のシステムもそうなっている」。

 それこそが、社会の変化を妨げる「おじさんの壁」に重なる、と女性は思う。

救いの自助グループ 2種類の札を手に

 人手が足りない8がけ社会を乗り切るには、誰もが生きやすく働きやすい社会をつくるしかない。女性には救いとなっている場所がある。まもなく発足5年を迎える自助グループ「にょきにょき会」。横浜市の「男女共同参画センター横浜」の支援で月に1度、非正規職に就く35歳以上の独身女性が集まる。

 女性たちは輪になり、2種類の札を持つ。

「ただ聞いてほしい」「アドバイスをください」。

 そのどちらかを掲げて、自由に話し始める。持ち時間は1人5分ほど。働き方、住まい、親の介護、今後の人生をどう生きるか……。

 境遇の似た仲間と出会い、女性は「声を上げないといけない」と思うようになった。毎日を生き抜くのに精いっぱいで、心身が追い詰められた人の中には、声を上げることを諦めた人もいる。そんな声も代弁しなくては、との思いから「自分の一票なんて」と思っていた選挙に行くようになった。

 非正規の低待遇を改善し、固定観念や偏見をなくし、仲間とつながれる場を増やす。

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