電機メーカーのシンフォニアテクノロジーも先行して取り組む一社。同社では短時間勤務は、子が小学校卒業までだが、今年4月に、障害などのある子どもを育てる社員については、「事由消滅まで」とした。これまでも有休の一部を繰り越す積立休暇制度や時間単位休暇、フレックスタイム勤務制度などを整備して個別の事情に対応してきたが、短時間勤務を拡充したことで、障害児を育てる従業員も長く働き続ける見通しが立つようになった。同社総務人事部長の密居慎也さんは言う。
「経験とスキルが蓄積した社員に長く働いてもらうことは、会社として、生産性の向上にもつながりますし、組織文化や価値観の共有もできます。会社としても社員個人としてもウィンウィンの関係になれるといい」
海外勤務挑戦も後押し
三井物産は、フレックスやリモートワーク、短時間勤務などに加え、独自に年5日の特定支援休暇がある。これは子どもだけでなく、両親や配偶者、配偶者の両親なども一定の支援が必要な場合に取得できる休暇だ。
30代の男性社員も、この特定支援休暇を利用している一人。
男性は、小学4年生の長男が通院や療育が必要で、付き添いのため、平日日中に仕事をたびたび休まなければならないという。突発的な打ち合わせが入っても、病院の予約の空きは数カ月先しかなく、日程を変えられずに職場に迷惑をかけていると感じることもある。それでも制度を利用しながら働き続けられていることに、「会社や社会の制度に助けられて感謝しております」という。
同社にはほかにも、さまざまな事情で一時的にキャリアを中断せざるを得ない社員が再入社を希望した場合にチャレンジできる「キャリア・リスタート制度」がある。障害児育児と仕事の両立をいったんあきらめても、再び働ける状況になったときにチャレンジすることも可能だ。
商社といえば海外転勤もあるが、障害などがある子を育てる社員にも、「難しいだろう」と会社が決めず、本人が手を挙げた場合は、海外での活躍を後押しするよう支援する。人事総務部次長の野田洋平さんは言う。
「会社には多様な個がいます。その一人ひとりがプロフェッショナルとして仕事をし、輝けるように、さまざまな制度を用意しています。柔軟な働き方には制度だけでなく、周囲の理解が不可欠です。社員のみなさんには、職場のコミュニケーションを大切にし、制度を組み合わせながら自分の働くスタイルを見つけてもらえたらと思っています」
今回、各社の取り組みを取材したが、制度を新設したケースは一部で、多くは、いまある制度や規定を拡充して障害児等を育てる従業員への配慮の視点を入れ込んだものだ。取材を申し込んだ際には「利用実績が少ないので取材をお受けしていいものか……」とためらう企業がいくつもあったが、これらは両立が立ち行かなくなった際の最後のセーフティーネット。利用者が少なくても、制度を整えておくことに大きな意義がある。
(ライター・松永怜)
※AERA 2024年9月23日号に加筆