TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は石井岳龍監督の映画「箱男」について。

『箱男』全国公開中 ⓒ2024 The Box Man Film Partners 配給:ハピネットファントム・スタジオ
この記事の写真をすべて見る

*  *  *

 映画「箱男」鑑賞後、地下鉄に乗ると、乗客の多くが「箱男」あるいは「箱女」に見えてきた。

 僕の前の席に座っている客が見事に全員スマホをいじっている。マスクで表情がわからない人もいる。

 スマホという小さな四角い「箱」から、彼ら彼女らはいったい何を覗いているのだろう。

『箱男』全国公開中 ⓒ2024 The Box Man Film Partners 配給:ハピネットファントム・スタジオ

 1973年、「箱男」は新潮社から発表された。それは箱を被り、匿名性をまとうことで自由を獲得したかに見える男の話。男は都市をうろつき、さまざまな世界を覗いて細かくノートに記録する。

 そんな物語を書いた安部公房は、石井岳龍監督に直接映画化を託したという。

 1997年、日独合作という座組でハンブルクに乗り込んだが、制作費のトラブルでクランクイン前日に撮影が中止となり、お蔵入りと思われた。

 それから27年、監督は諦めることはなく、安部公房生誕100周年に当たる今年、当時のキャストである永瀬正敏、佐藤浩市に加えて浅野忠信が入り、公開となった。

『箱男』全国公開中 ⓒ2024 The Box Man Film Partners 配給:ハピネットファントム・スタジオ
著者プロフィールを見る
延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

延江浩の記事一覧はこちら
次のページ
笑いを堪えるのが難しかった