TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は石井岳龍監督の映画「箱男」について。

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映画「箱男」鑑賞後、地下鉄に乗ると、乗客の多くが「箱男」あるいは「箱女」に見えてきた。
僕の前の席に座っている客が見事に全員スマホをいじっている。マスクで表情がわからない人もいる。
スマホという小さな四角い「箱」から、彼ら彼女らはいったい何を覗いているのだろう。

1973年、「箱男」は新潮社から発表された。それは箱を被り、匿名性をまとうことで自由を獲得したかに見える男の話。男は都市をうろつき、さまざまな世界を覗いて細かくノートに記録する。
そんな物語を書いた安部公房は、石井岳龍監督に直接映画化を託したという。
1997年、日独合作という座組でハンブルクに乗り込んだが、制作費のトラブルでクランクイン前日に撮影が中止となり、お蔵入りと思われた。
それから27年、監督は諦めることはなく、安部公房生誕100周年に当たる今年、当時のキャストである永瀬正敏、佐藤浩市に加えて浅野忠信が入り、公開となった。
