酷暑に体力を奪われ、在宅勤務で運動量は激減。職場の人手不足で業務や責任は増えて疲れはたまるばかり。そんなときに頼りたくなる栄養ドリンク。忙しい人の救世主のイメージだが、疲労回復の味方なのか。AERA 2024年9月9日号の「最強の回復法」特集より。
【図版】カフェイン取り過ぎチェックリスト、主な飲料・食品に含まれるカフェイン量
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もうひと踏ん張りしたいときに、つい栄養ドリンクに手が伸びる人も少なくないだろう。
建設会社で働く神戸市の女性(53)もその一人だ。
「夜は暑くて眠れないわ、朝からやる気も出ないわで、今年の夏は本当にだめ」
エアコンをつけっぱなしは気が引けてしまい、タイマーが切れる午前2時頃に目が覚めてしまう。コロナ禍は在宅ワークだったが、今は出社する日々。通勤時間帯もすでに炎天下で足を引きずるような気持ちで職場へ。
「この疲れを今すぐどうにかしたい。だまされたっていい」と栄養ドリンクを手に取るという。
さて、栄養ドリンクは疲労回復の味方なのか。
睡眠の質向上の商品も
「カフェインをとると、男性ホルモンのひとつ、テストステロン値が上昇して興奮します。この状態を『目が覚めた』と言いますが、実際は覚醒していません」と話すのは、作業療法士、菅原洋平さん。
「多くの栄養ドリンクは、疲労を抑える働きのある抗酸化物質が入っています。疲れている体に抗酸化物質を注入すると、疲労の原因となる肝臓の炎症反応が少なくなり、疲労が回復した気になります。これは、肝臓の炎症が鎮まって、『疲れていない』という一時的なシグナルが脳に伝わっただけで、肝臓以外は変わっていません。疲労感を隠したまま、活動し続けると、突然気力を失うこともあります」
寝る前に栄養ドリンクを飲む人もいるが、カフェインや糖分により睡眠の質が低下することもあるため、最近では睡眠の質の向上を狙う商品も増えている。
「アミノ酸のグリシンなど、睡眠の質が向上すると言われる物質がさまざまあります。これらの服用は、その物質の働きだけでなく、眠りやすい習慣づくりのきっかけになります。疲労感を隠すために飲むのではなく、より良い休息に役立ててみましょう」(菅原さん)
疲れを吹き飛ばすといえば、クエン酸飲料も挙げられることがある。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身医師は言う。
「疲労感を取るというより、ダイエット中などで食生活が極端に偏っている人に、クエン酸が効果的です。タンパク質、炭水化物などのエネルギー不足の人がとると、エネルギー効率を高めます。クエン酸(1日の摂取量2.7グラム)は梅干し4個分からも取れます」
(編集部・小長光哲郎、井上有紀子)
※AERA 2024年9月9日号より抜粋