始球式後は、この日のヤクルトスワローズ対DeNA戦を家族揃って観戦。ヤクルトの大ファンで、特に好きなのが「村上(宗隆)選手!」だという楽くん。5回裏に村上選手が放ったホームランに楽くんも大喜び(写真:佐藤創紀/写真映像部)

 息子の病名を知った聖志さんの脳裏に思い浮かんだのは、「アイス・バケツ・チャレンジ」だった。2014年の夏に広まった、バケツに入れた氷水を頭からかぶる動画は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)についての認知度を高め、寄付を募るために始められた。ビル・ゲイツやスティーブン・スピルバーグ、レディー・ガガといった各界著名人が参加したこともあって、米国だけでも125億円以上の寄付金が集まり、のちに病気の原因となる遺伝子の発見につながっている。

「いろいろな批判もありましたが、まずは広く知ってもらうということがとても大事なのだという、いい事例だと思いました」

 歌舞伎症候群は、残念ながら治療法が確立されていない。だから、将来的には支援団体を立ち上げて、患者が互いにサポートできる体制を整えたいのだと夫妻は口をそろえる。親がいるうちはいい、でもその先は、というのは、障害のある子を持つ親が必ず感じる不安でもあろう。聖志さんは、自分が医師だからこそ、ネットワークは作りやすいはずだと考えている。「西洋医学を学んできた身として、神も仏も信じていない」と前置きをしたうえで、「精神疾患の遺伝子研究をしていた自分のところに、遺伝性疾患を持つ子どもが遣わされた。これは、自分がやらねばならない何かがあるということだろうと思いました」と語る。

 もっと社会制度が整えば、という気持ちももちろんあるが、「行政含めて動かすのはなかなか大変かなと思っています」と聖志さん。だからこそ、「応援するよと言ってもらえるような関係性を作り出すというのが、私のミッションの一つ、親としての自分の目標ですね。サポートをしていただいた今回の企画にはとても感謝しています」。

「まずは知ってもらわないことには始まらない」というのが夫妻の考えだが、では、知った我々にできることは何だろうか。どう接していいかわからない、という人もあるだろう。率直に尋ねてみた。

「やっぱり人よりできないことはたくさんあるんですよね。でも一方で、得意なことは本当に得意です。例えば、パズルなどの空間認知能力は高いし、野球選手を覚えるのも早い」と真理子さん。ヤクルトの選手は腕を見れば誰だかわかるというから、その認知力と記憶力は相当だ。

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