大好きな村上宗隆選手のレプリカユニフォームに身を包み、ベンチからマウンドへ向かう楽くん。満員の神宮球場でも緊張の気配はない(写真:佐藤創紀/写真映像部)

 聖志さんが始球式を希望したのは、「息子が大好きな野球を通じて、成長を促せたら」という思いから。「息子の場合は難病ですが、人は自分が抱えているものによって萎縮(いしゅく)してしまいがちです。でも、それはチャレンジする経験によって切り拓(ひら)いていくことができる、と伝えたいと思いました」

 同時に、歌舞伎症候群の存在を知ってほしい、という願いもあった。顔の特徴が歌舞伎の隈(くま)取りに似ていることから名付けられたこの難病の患者は、わずか3万2千人に1人とされる。「医師である自分でも、診断されるまで気づくことができなかった。存在自体が知られていないこの病気のことも、多くの方に知っていただきたいと思いました」(聖志さん)

 母親の真理子さんも言葉を添える。「顔や体の特徴以外では、知的障害があったり、心臓に問題を抱えていたりと、人によって症状がまったく違うんですね。こういう特徴がある病気だということを広く知ってもらえたら、病名もわからなかったころの私たちと同じように漠然と不安を抱えている親御さんたちも、積極的な検査で今後につなげることができると思うんです」

広く知ってもらいたい

 楽くんの疾患が判明したのは、5歳6カ月のとき。コロナウイルスの蔓延もあって病院の診療体制も整っておらず、初めて受診したのは4歳9カ月だった。

「発達が遅いのかなと感じていて、発達支援の療育には通っていたんですけど、何か病気があるとまでは考えていなかった」という真理子さんは、告知されたとき、意外にも「ほっとしたというのが正直なところでした」と明かす。「調べてみると、知的な遅れがあるんだなとか、低身長で、筋肉の発達の遅れも症状のひとつなんだなとか、不安に感じていたすべてに理由がついて納得できました。それに、将来的に不安障害を発症しやすい病気だということもわかって、防ぐためにどんなサポートが必要かとか、何かしら、自分たちの道しるべができた」。だからこそ、多くの人にこの病気のことを知ってもらいたいのだという。

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歌舞伎症候群の存在を知ってほしい