難病「歌舞伎症候群」を持つ吉次楽くん(7)は、神宮球場で始球式に挑戦。バウンドさせながらもキャッチャーに届く球を見事に投げきった(写真:佐藤創紀/写真映像部)
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 難病の息子に始球式を──1人の医師の思いを、夢を応援する企業が後押しし、神宮球場いっぱいの観衆と選手が見守った。彼らが叶えたい社会を実現させるために、7歳の少年が笑顔で投げたボールを、どう受け取っていけばいいだろうか。AERA 2024年8月26日号より。

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満員の神宮球場。マウンドに立つ7歳の少年に、緊張の気配はなかった。左足をちょこんと上げ、大きく振りかぶった少年の手を離れた白いボールが、空にきれいな弧を描く。

 7月19日に行われた始球式で、バウンドさせながらもキャッチャーに届く球を見事に投げきったのは、ヤクルトスワローズの大ファン、吉次楽(よしつぐがく)くん。小柄な体躯(たいく)に、切れ長の目、幅の広い眉。難病「歌舞伎症候群」の特徴を持つ顔は生き生きと輝き、投球前よりも自信に満ちているように見えた。筋力の発達に遅れがあり、片足立ちも難しかったというが、始球式に向けて東京ヤクルトスワローズベースボールアカデミーの度会博文ヘッドコーチの教えなどを受けながら、1カ月の投球練習を経て臨んだ。中村悠平捕手から「ナイスボール!」と声をかけられての第一声は、「楽しかったー!」。

 父親の聖志(きよし)さんは「いや、驚きました。楽しそうに投げているじゃないですか」と目をうるませながら笑顔で語った。聴覚過敏もあるという楽くんが「大観衆のなかに出ていけたこと、投げられたことに感動しました」。

チャレンジの大切さを

この始球式は、不動産事業を手がけるオープンハウスグループによる公募「神宮球場で叶(かな)える夢」に聖志さんが応募したことで実現した。同社の「社内で実践している『努力し挑戦している人』の夢の実現を応援するという企業姿勢を具現化した」(飯田大輔広告宣伝部次長)という、「応援ハウスプロジェクト」の企画第1弾だ。

「夢を叶えるための挑戦や努力はかっこいい、本気で挑戦していれば応援してくれる人は現れる、という気づきを提供し、挑戦する土壌と、みんなが応援する空気の醸成に寄与できればと考えています」(同)

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