Z世代の感性を見抜く目 アーバンスポーツに注目

 日本の高度成長期の猛烈サラリーマンを地で行く渡辺のライフスタイルは、「働き方改革」が叫ばれる時代には古くさくも映る。一方で、時代の流れを感じ取る嗅覚がある。幼少からネット環境に触れている「Z世代」の感性を把握するために情報のアップデートを怠らない。訪ね歩く世界の各都市の広告看板やテレビのCMなど、日ごろから無意識に観察する好奇心のたまものだ。

 3年前に対談したとき、スポーツ界の潮流の変化について語った見立てには先見の明があった。

「日本のスポーツ界は完璧な階層社会。トップがコーチで、上級生がいて下級生がいる。この上下関係、ヒエラルキーが嫌で辞めていく人が多い。小さい時からはじめて、まだ若いうちにやめてしまう。だからライフスタイルの中にスポーツが根づいていかない」

「その中で、スケートボードなどアーバン(都市型)スポーツにはヒエラルキーがない。やかましいコーチに頭を下げる必要がないフラットな社会。ネットで映像を見て『これ面白いな、オレもやってみよう』と気軽に始められる。サーフィンとかも、大人になってもやっている人がたくさんいる。そういう風にスポーツの構造が変わっていく。この現実を伝統的なスポーツの関係者は真剣に考えないと置いて行かれる」

 コロナ禍で1年延期された東京五輪。スケートボード女子パークの最終演技で逆転を狙った岡本碧優が大技に挑み、失敗した。結果は4位。涙を浮かべる彼女に他の選手が駆け寄り、かつぎ上げて健闘をたたえた。勝ち負けも国籍も関係ない。仲間の優しさに触れ、泣き笑いのヒロインが控えめにガッツポーズをした瞬間は、IOC会長のバッハが「平和の祭典」の尊さを説くより、よほど説得力があった。

 その東京五輪は贈収賄事件に談合疑惑と、五輪憲章が掲げる高邁(こうまい)な理想を汚すスキャンダルが次々と噴き出している。

 日本オリンピック委員会(JOC)会長の山下泰裕、スポーツ庁長官の室伏広治ら日本のスポーツ界の上層部は当初、贈収賄事件について「事実だとしたら残念」など、当事者意識が希薄な発言をしていた。そんななか、渡辺は違った。

「僕は組織委の理事だったから、起きた以上、責任はある。理事会でただ座っているだけだったことへの責任を痛感している」と自省した上で、「スポーツに携わる大多数の人がボランティアで尽くしているのに、それを一握りの人間のせいですべて否定される。日本のスポーツ界は、もっと怒るべきだ」といち早く公言した。渡辺自身、東京大会の組織委理事の仕事は無報酬だし、FIGもIOCも給与はない。

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