最近、飛行機に乗るときは機内に持ち込める荷物だけで出かける身軽な旅が板についてきた(撮影/今祥雄)
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 IOC(国際オリンピック委員会)の次期会長選に立候補する方向で調整を進めている国際体操連盟会長でIOC委員の渡辺守成。高校時代に体操と出会い、国際体操連盟会長まで上り詰める軌跡を書いた2022年12月19号のAERA「現代の肖像」の全文を公開する。(年齢・肩書は当時のものです)

【写真】2022年10月、東京で開かれたパルクールの世界選手権の開会式であいさつする渡辺守成

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 日本にいるのは年間1カ月ぐらい。睡眠は1日4時間で、世界を駆け回る。その忙しさは、IOC会長のバッハもあきれる。世界の体操界を束ねつつ、IOC委員でもある。それも異色の「サラリーマン委員」。就任してまだ4年なのに、存在感は際立つ。運命のいたずらにも思える体操との縁が世界への扉を開いた。閉塞感漂う日本で、未来を担う若者を鼓舞する。縮こまらず、羽ばたけ。

睡眠時間は1日約4時間 「最大限有効に使いたい」

 携帯電話にかけるのをためらう相手だ。

 ほぼ3日に一度はほかの国に移動する。地球のどこにいるのか、把握できない。時差によっては深夜帯かもしれない。

 でも、記者として急ぎで聞きたい用件もある。携帯でメッセージを送ると、すぐ「既読」になる。

 聞いてみた。寝る時間、確保していますか? 

「どんな案件でも初動が遅れれば、取り返すのに倍の努力と時間がかかる。だから、すぐに反応するのが習慣になった」

 国際体操連盟(FIG)の会長をつとめる渡辺守成(わたなべもりなり)(63)の睡眠時間は1日4時間ぐらいだ。

「基本的に寝る時間はムダだと思っている。何も生み出さないから。時間は誰でも平等に1日24時間与えられている。最大限、有効に使いたい」

 一年のうち、日本にいるのは正味1カ月程度しかない。残りのうち2カ月はFIG本部があるスイス・ローザンヌで、あとは世界を行脚する。

 2016年10月、東京で開かれた総会でフランス人候補に圧勝し、FIG会長に選ばれた。1881年創設の組織で、欧州出身以外の会長誕生は初めてだった。日本人が五輪競技の国際統括団体でトップに立つのは柔道の嘉納履正と松前重義、卓球の荻村伊智朗に次いで4人目だ。

 1年半近い選挙戦では、102カ国・地域を訪ね歩き、世界の体操関係者の声を聞いて回った。潤沢な資金はなかった。エコノミークラスでの過酷な移動は肉体をむしばんだ。

「文字どおり、エコノミークラス症候群で、左ひざを手術した」

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「名誉は欲しくありません」