中国代表デュエットはFRだけの順位は4位だったものの、首位発進したTRの貯金で逃げ切った。金メダル獲得が決まって2人がみせた涙は、チームで圧勝した中国ですら、デュエットでの戦いは容易くなかったことをうかがわせた。

 今年2月にカタール・ドーハで行われた世界水泳選手権は、日本にとってチームの五輪出場枠を勝ち取ることを最優先に臨んだ大会だった。この大会にエントリーしていた日本代表デュエットは安永真白&比嘉だったが、安永が大会直前に体調を崩し、デュエットの練習を充分に積めなかったため棄権している。一方、中国はこの大会のデュエットでTR・FRの金メダル、イギリスはTRの銀メダルとFRの銅メダル、オランダはFRの銀メダルをそれぞれ獲得した。

 日本は、パリ五輪まで約3カ月という時期に高い技術を持つ佐藤をデュエットに抜擢、比嘉&佐藤のペアで今大会に臨むことになった。チームとデュエットの両立を図った決断と思われるが、世界選手権ドーハ大会の時点で、デュエットを棄権せざるを得なかった日本は、既に遅れをとっていたのかもしれない。

 技術力と同調性を武器にしてきた日本だが、DDの上昇が著しく同調性が以前ほど重視されない現在のASでは苦戦している。五輪の全大会・全競技に出場し続けてきた歴史を守りつつ、チーム・デュエットの両方でメダルを獲得するには、どのように強化したらいいのか。2028年ロサンゼルス五輪に向け、突き付けられた難題に向かい合う4年間は、既に始まっている。(文・沢田聡子)

沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。フィギュアスケート、アーティスティックスイミング、アイスホッケー等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。2022年北京五輪を現地取材。Yahoo!ニュース エキスパート「競技場の片隅から」