その成果を出すときが来た。

 男子高飛込決勝。1ラウンド目は難なく成功させて2位につけた。続く207B。緊張感が高まる中ではあったが練習の成果が如実に表れた。なんとこの技では自身過去最高得点となる95.40を叩き出したのである。回転も、ノースプラッシュの入水も完璧だった。

 勢いづいた玉井は、3、4ラウンドも何なくこなし、トップと2.75ポイント差の2位をキープ。ただ、好調なときにこそ落とし穴が待っている。

 金メダルにも手が届きそうな5ラウンド目、「金メダルを意識して肩に力が入ってしまった」と入水が乱れて大きく水しぶきが上がる。アナウンスされた得点は、39.10。決勝に出場していた12人のなかで、最も悪い得点を出してしまったのだ。

 万事休すかと思われたが、4ラウンド目までの好演技が功を奏し、5ラウンドを終えた時点で3位にとどまることができた。

 そして迎えた最終ラウンド。玉井が「相棒」とまで称する得意技、5255B(後ろ宙返り2回転半2回半捻りエビ型)で失敗するはずがなかった。

 飛ぶ、捻る、回転する、入水する。全く水しぶきが上がらない。大歓声が沸き起こる中、99.00とコールされる得点。玉井のあとには中国のふたりが飛ぶ予定だったが、この時点で1位となったことで銅メダル以上が確定。飛び跳ねながらガッツポーズを繰り返し、恩師・馬淵コーチの元に駆け寄り抱き合う。

 玉井が、日本の飛込競技における歴史を塗り替えた瞬間だった。

 結果、予選からずっとトップを守ってきた中国の曹縁が547.50で金メダルを獲得。玉井は合計507.65ポイントで銀メダルとなり、日本初のメダルをもたらした。

「今までにないくらいうれしい。でも、まだ信じられないという気持ちが正直なところです」

 先人たちが幾度となく立ち向かい、跳ね返されてしまった表彰台という大きな壁。玉井はその先人たちの力を借り、見事打ち破って見せた。こうなれば、あとは目指すところはひとつしかない。新たな挑戦に向けて、玉井は歩みを止めない。

「失敗しなければ、絶対王者の中国に勝てる位置にいると思う。1位を目指せる位置にいるなら、1位を目指したい」(文・田坂友暁)