飛込競技は、台や飛板から飛び出したあと、回転や捻りを行ったあとに頭から入水する。その回転の方向が後ろ向き、バク転と同じ方向に回転してから入水する技が“後ろ入水”の技である。

 前宙返りからの入水する技である“前入水”と何が違うかというと、入水するときに水面が見えるか見えないかだ。

 前入水の場合は、回転してから身体を開き、入水の姿勢を作った時に顔が水面のほうを向いているので、ほんの一瞬ではあるが、入水面を確認することができる。

 だが、後ろ入水では入水姿勢を作った時の顔の向きは上。そこから身体を反らせるようにしながら入水する。つまり、全く入水面を見ることができないのである。そうなると、水しぶきを上げずに入水をすることの難しさが格段にアップする。

 この後ろ向きに入水する技が2つあって、3桁の数字で表す技の名前のなかで、2と3から始まる技が、これに当たる。

 玉井の演技構成(ダイブリスト)を見てみると、2ラウンド目に飛ぶ技が207B(後ろ宙返り3回転半エビ型)で、5ラウンド目に飛ぶのが307C(前踏み切り後ろ宙返り3回転半抱え型)であった。そして、準決勝でミスが出たのも、この2つの種目であった。

 玉井はこの207Bと307Cをずっと課題として位置づけてきた。この2つの種目さえ安定して高得点を出せるようになれば、残りの種目は得意な技が並んでいるだけに、世界でメダル争いができる。それは、玉井を指導する馬淵崇英コーチも同様の考えだった。

 さらに、馬淵コーチに指導方針は、技の完成度を上げていくことに注力する。つまり、成功すれば高得点を狙える一発逆転の技を練習するのではなく、できる限り10回飛んだら10回成功するくらいの技の成功率と再現性を高めていくのである。

 非常に地味で苦しい練習である。どんな体調でも、どんな調子でも、ただひたすら同じことを、同じ感覚で、同じように飛べるようにする練習。全く同じ問題の計算ドリルを、毎日、毎週、毎月ずっと解かされ続けているようなものである。

 時には弱音を吐くときもあったが、玉井は馬淵コーチを信じてやり続けてきた。1本1本、集中して、同じように、同じ感覚で飛べるように。

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早くも“次なる目標”を明言