(漫画:まずりん)

コンビニ、美容院、歯科医院、どれが多い?

 日本にコンビニエンスストア、美容院、歯科医院の中でどれが一番多いか聞かれると、コンビニと答える人が多いです。実際は、もっとも多いのは美容院で約26万4千軒、次に歯科医院が6万7千軒、最後がコンビニの5万7千軒です。コンビニが多いと思い込むのは、コンビニを利用する機会がもっとも多いからです。人は何かを判断する時に、自分が思い出しやすい記憶や、印象が強かったできごとを根拠にしてしまいます。この傾向を「利用可能性ヒューリスティック」といいます。

 この心理に関する実験を、ダニエル・カーネマン教授が著作『ファスト&スロー』で紹介しています。夫と妻の両方に対して別々に、「家事全体の中で、自分がどのくらいの割合をやっているか」を答えてもらうのです。二人とも正しい割合を答えれば、合計は100%になるはずです。ところが結果は100%を超えてしまいます。なぜなら二人とも、自分が行う家事の割合を実際より多いと判断するためです。では実験に参加した夫婦は、嘘つきやわがままなのでしょうか。いいえ、そうではありません。原因は「利用可能性ヒューリスティック」なのです。

二人とも自分がやる家事は(当たり前ですが)すべて知り、覚えています。逆に相手がやっている家事のすべては知りません。その結果二人とも、印象が強い自分の家事のほうが多いと思い込んでしまうのです。これは互いが無意識にくだす判断であり、どちら側にも悪意はありません。

 ただ、それぞれが「自分のほうが家事をたくさんやっている」と思いながら暮らすとどうなるでしょう? 知らず知らずに不満がたまり、ケンカにもなりかねません。もし「利用可能性ヒューリスティック」を知り、自分自身と相手を理解できると不満も生まれないでしょう。その他のさまざまな場面でも、誤解による不満は減るはずです。人間の心理を知ることは人間関係を良くすることにもつながるのです。

(文:橋本 之克/漫画:まずりん)