安全性・安定性の向上については、JR東海はこう説明する。
「営業車両でドクターイエローと同等以上のデータを高頻度に取得し検査ができるため、設備の安全性・信頼性を高めるとともに、保守作業のさらなる省力化を実現できます」
松本さんは「引退は老朽化を機としたコストダウンと考える」と指摘。ある関係者も「専用車とドクターイエローを比較すると、コストは数十億円規模で少なくて済む」と言う。
近年、技術の発達により検測機器の小型化が進み、営業車両への検測機器の搭載も可能になった。JR九州では、博多−鹿児島中央間が全線開業した11年3月から、800系に機器を搭載し、乗客を乗せた営業列車での本格的な検測を実施している。機器は「軌道検測装置」と呼び、800系と最新鋭のN700Sの、いずれも一部の車両に搭載し、線路の凹凸や歪み、車両の揺れ(動揺)などを検測している。営業車両に装置を搭載して検測するメリットについて、JR九州は、こう述べる。
「高頻度で検測データが取得できる点が主なメリットであると考えています」
松本さんによると、新幹線の軌道・電力・信号・通信の検測内容は規則に定められたもので東海道・山陽新幹線と九州新幹線で基本的に差はないという。
「東海道・山陽新幹線でもこれに倣い、専用の後継車両を開発するのではなく、営業車両への搭載によって検測作業を引き継ぐ判断をしたのではないかと思います」(松本さん)
体験乗車イベントも
一方、JR東日本は、E3系をベースとする赤と白の「East−i(イーストアイ)」と呼ぶ検測専用車両を走らせている。JR東の場合、フル規格の新幹線からミニ新幹線、さらには電気方式も50ヘルツや60ヘルツと違えば、信号方式も区間によって異なるなど多彩な条件下での検測が必要になるからだ。
「JR東は、専用の検測車両によって各路線を巡視していく方がコスト的にリーズナブルと思います」(松本さん)
引退まで約5カ月。JR東海はドクターイエローの引退に合わせ「体験乗車イベント」を予定している。残された時間はわずか。出会えた時は、これまで以上に「幸せ」を感じるに違いない。(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年8月5日号