しかし、そもそもなぜドクターイエローは「黄色」なのか?
「従来、新幹線の保守作業車は夜間走行時の視認性のため、車体の色に黄色を採用してきました」(JR東海)
夜間作業時にも目立つように黄色く塗られるのが通例だったことから、ドクターイエローも黄色になったという。
そんな特別な列車に、記者はかつて新大阪から東京まで取材で乗る機会があった。
7両編成のドクターイエローは、1号車から7号車までそれぞれに役割がある。例えば、1号車は「電気検測室」で、無線や信号などに異常がないかをチェックする。4号車はドクターイエローの「心臓部」で、レールのゆがみや上下、左右の高低差などを25センチ間隔で0.1ミリ単位の精度で検測した。
この時、案内してくれたJR東海の担当者は「リアルタイムで表示される波形データを見て小さな変化を拾い上げ、要注意の予兆を発見し、異常の発生を未然に防いでいく。ある意味職人技の世界です」と説明していた。新幹線の安全を支え続け、「新幹線の用心棒」の異名も持つが、まさにその名にふさわしいものだった。
鉄道ジャーナリストの松本さんもT3編成とT4編成に取材で乗ったことがあり、「列車内では係員が検測データの蓄積と解析をじっと見守るだけ。実に静かな運転でした」と振り返り、こう話す。
「60年にわたる新幹線の運行を維持してきたという自負も感じさせ、まさに頭が下がる思い。災害時は別として、新幹線で脱線などの致命的な事故が起こらずにここまで来たのもドクターイエローのおかげです」
大人も子どもも、そしてコアな鉄道ファンも虜(とりこ)にしてきたドクターイエロー。引退となると新しいドクターイエローの登場が期待されるが、残念なことに現在の車両が最後になる。後継車両はなく、今後は「のぞみ」などに使用する最新型車両の「N700S」に検測機器を取り付け営業運転しながら、安全を管理していく。
老朽化とコストダウン
引退理由について、JR東海は「車両の老朽化」と「安全性・安定性の向上」の二つを挙げる。新幹線車両の耐用年数は20年余といわれる中、T4編成はすでに20年を超えていた。そのため鉄道ファンの間では「ついに来るべき時が……」という声も上がっている。