AERA 2024年7月29日号より

 日本の多くの企業が理想としてきた「標準的正社員」。その働き方をしていると家事や育児などのケア労働を担えず、パートナーがいる場合、どちらかが「限定正社員」や非正規の働き方を選ぶことになりがちだ。そして、女性がこの働き方を選択すれば、「女性が中核となる正社員層から締め出されて男性中心の会社に戻ってしまう」と今井教授は危惧する。

 今井教授が研究生活を送ったドイツでは、同じ職種なら、働き方や企業規模に関わらず同じ健康保険や年金に入る仕組みだった。一方、日本では大企業には独自の社会保険があり、非正規だと国民健康保険に入ることが多い。

「国民としての資格のはずなのに、企業別シティズンシップ格差が生まれています」(今井教授)

 働き方や勤め先によって生みだされる格差。だが、政府と企業が掲げ続けているのは「働き方の多様化」だ。もちろん、自分の価値観や生活に合わせて、あえて非正規雇用という働き方を選ぶ人もいる。

非正規にメリットも

 AERAのアンケートにも、非正規で働くメリットとして、

「責任を負うといった負担が軽いことと、休みが取りやすいこと」(栃木県、50代女性)

「色々な仕事が体験でき、入りやすく辞めやすい」(東京都、56歳女性)

「時間ぴったりに仕事を終われる」(愛知県、51歳女性)などの回答があった。

 大学院で音楽教育学を専攻していた女性(43)は就職先を探す際、「教員は声を酷使するし、正社員だと時間的に歌を続けるのは難しい」と考えて派遣社員になった。クリニックの医療事務など様々な仕事をしながら、歌の活動を続けてきたという。

 コロナ禍には一時、音楽関係の仕事はゼロに。国から補助金は出たものの、この時期に音楽の道を離れた知人もいた。女性は週に3日、私立学校広報の仕事を始め、現在は歌手としてソロや合唱の仕事のほか、合唱指導や歌のレッスン、専門学校での授業を受け持つ。

正社員の働き方是正を

 女性は「人脈が広がり、次の仕事につながっていく。非正規雇用だからこそ、音楽の仕事が増えてきたことに対応できている」などの良い点を挙げる。

 それでも、非正規であるマイナス面が消えることはない。

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