非正規で働く人の中には、本当は正社員になってキャリアを積みたい人もいる。家庭の事情に影響を受けやすい女性が正社員になりたくてもなれない、ハードルとは。AERA 2024年7月29日号より。
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厚生労働省が実施した「令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、正社員以外の労働者(出向社員を除く)に現在の就業形態を選んだ理由について聞くと、「自分の都合のよい時間に働けるから」(36.1%)が最も多かったが、「家庭の事情(家事・育児・介護等)と両立しやすいから」(29.2%)、「正社員として働ける会社がなかったから」(12.8%)という回答も目立つ。
本当はもっと働いてキャリアを積みたい。そんな想いを抱えている「不本意非正規」は2021年、214万人いるとされている(令和4年版男女共同参画白書から)。
現状を打開する術はないのか。
『雇用関係と社会的不平等』の著書がある上智大学の今井順教授(社会学)は「俎上に載せるべきは、基準になっている正規の働き方。そこを見直さないと、非正規も含めて多くの問題は解決しない」と指摘する。
「転勤は当然」の日本
例えば多くの日本企業では、転勤や出向が長らく一般的だった。
「命令すれば人を動かせるというのは、会社の側から考えるとものすごく便利。だからこそ正規の人は収入や福利厚生などで良い処遇を受けられるし、非正規はその恩恵にあずかれなくても当然だと思われてきた」(今井教授)
最近は長時間労働や転勤制度が疑問視されるようになり、正規雇用でも勤務時間や勤務地を限定する働き方が広がりつつある。子育てや介護を理由に勤務時間を調整したり、勤務地の希望を言いやすくなったり。ポジティブな変化として歓迎したいが、これらの「限定正社員」の処遇は低く設定されがちなのが現状だ。その結果、転勤などを受け入れる「標準的正社員」がこれまで以上に会社の命令を受け入れざるをえないというケースもある。