消費者優先から脱却を
働き手不足の未来は悲観的な面ばかりではない。構造的な働き手不足という危機が、日本を全く新しい豊かな社会に変えるための突破口になるのでは、と古屋さんは期待を込めて言う。
「『必要は発明の母』とも言われるように、人手不足を最も深刻に受け止めている現場でこそ、新しいアイデアが生まれやすいと考えています」
必要な変革を行わずに労働者に長時間労働を強いる企業。労働者を安い賃金で働かせようとする企業。過度に負荷が高い仕事を労働者に押し付ける企業。こうした企業は構造的な働き手不足を迎える将来の日本の労働市場において生き残ることができない。消費者優先のこれまでの姿勢から脱却し、働き手のニーズに柔軟に対応した職場やビジネスモデルをどう構築していけるか。そんな社会変革のキーワードになりそうなのが、「消費者と労働者の境目が曖昧になる」「働き手が神様」「労働が楽しくなる」の3点だという。
「働き手がいなくなれば、売り上げも利益も出ません。お客様は神様ではなく、働き手が神様という世界観や哲学的な変化が日本にもたらされると思います。働き手は消費者でもあり、生活者でもあるわけですから、働き手がハッピーであれば、社会全体がハッピーと言えるかもしれません」
古屋さんはこう続けた。
「日本が迎えつつある人口動態の変化は今後、先進国を中心に直面するのが不可避です。日本が先んじて課題解決の道筋を示すチャンスの到来と捉えることもできます」
何が正解かなんて誰も持ち合わせていない。試行錯誤すること。それ自体が正しい局面に日本社会は足を踏み入れている。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年7月29日号