先生の家庭訪問もできなくなった
友達の家へ遊びに行けなくなることの“デメリット”はこれに限らない。
「親に虐待されている子どものケースを考えると分かりやすいでしょう。幼い時から虐待を受けている子どもは、その状態を当たり前だと思い込んでしまいます。ところが友達の家で暴言を吐いたり暴力を振るわない親の姿を見ることで、自分の置かれている状況を客観的に、正しく把握できるようになります。その結果、担任に相談しようと考えたり、児童相談所に助けを求めようと決心したりするチャンスが増えるはずです」(親野氏)
自分の子どもが友達の家に遊びに行くのは教育上も大きな効果があるはずなのに、なぜ躊躇する親が増えてきたのか。親野氏は「ここ10年くらいの傾向だと思う」としたうえでこう語る。
「プライバシーはもちろん尊重すべきですが、いきすぎて孤立を招くのも望ましくありません。子どもばかりでなく、教師も家庭訪問ができない時代になりました。家庭訪問は子どもたちの指導に極めて有益で、学校だけでなく自宅での姿を見ることで、子どもの理解が飛躍的に深まったものです。まさに“百聞は一見にしかず”ですが、保護者も教師も、そして子どもたちも、昭和のような“濃密な人間関係”を構築することは不可能になってしまいました。今の時代でも子どもたちがもう少し気楽に友達の家に遊びに行くにはどうしたらいいのか、教師も家庭訪問のようなことを再開できないか、もう一度、社会全体で考えてみる必要があるのかもしれません」(親野氏)
多様性の時代と言われる今、子どもたちが「自分の家」しか知らないことは正しいのだろうか。一人の親としても自問してしまう。
(井荻稔)