その約10分後。地震発生から丸1日経ち、佳織さんはようやく、外に運び出された翔太さんと再会できた。その体は青白く、既に硬くなっていた。

佳織さんは倒壊した自宅を指をさしながら、震災の日に起きたことを説明してくれた

付き合いのきっかけはシンイチさん

 二人は、福岡県久留米市で出会った。それぞれ別の障害者施設に勤めていたが、同じグループの施設同士ということもあり、ある日、佳織さんの働く施設に翔太さんが訪ねてきたのだという。

「私の施設には、重度の自閉症のシンイチさんという方がいたんですけど、翔ちゃんがシンイチさんと接する姿を見たとき、恋愛感情とかではなく、こういう人が旦那さんだったらいいなって思ったんです。誰かと何げなく接しているときにその人の人間性って出るじゃないですか。シンイチさんに対して、さらっと普通にあいさつをする姿を見て、優しさというか、人としての魅力を感じたんだと思います。

 だが、“第二印象”は最悪だった。後日開かれた食事会で、翔太さんは佳織さんの施設の女性スタッフたちを順番に褒めていった。「あなたはワインが似合いますねー」「ああ、あなたは日本酒が似合いますね!」。

 そして最後、佳織さんにかけた言葉は、「よく食べますね」。

「なんだこいつ!って、ちょっとムカついたんですよ(笑)。その後、LINEの連絡先を聞かれて、食事に誘われて。まあでも、一番初めに見た翔ちゃんの姿を思い出して、デートしてみたんですよね」

 2017年、二人は佳織さんの誕生日の3月1日に婚姻届けを出した。結婚を機に、互いの実家がある本県に引っ越したが、以前から金継ぎをたしなんでいた佳織さんの「輪島塗を勉強したい」という願いをかなえるため、22年3月に夫婦で輪島に移り住んだ。

「翔ちゃんは地域おこし協力隊として、(県立)輪島高校で教育支援をしていました。相手の本質をとらえたがる人で、誰かの話を聞くのがすごく好きでした。輪島で活躍する100人にインタビューする企画も進めていて、今年は聞いた話をまとめて冊子にするって言ってました」

倒壊した自宅に戻り、翔太さんの服を、汚れないよう袋に詰める佳織さん。勤務先の輪島高校の卒業式で着る予定だったスーツも、大切にしまった
向かいの家の住人と一緒に家から持ち出せるものがないか探していると、翔太さんが履いていた黒い靴と、翔太さんから買ってもらった真っ白な靴が見つかった。奥の車は、結婚当時からの愛車・日産「MOCO」。「ありがとねーモコちゃん。ずっと一緒で、輪島まで来て……」
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