店舗の前で被災者にプリンを配る中浦政克社長(右)
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 能登半島地震で大きな被害が出た石川県輪島市で、110年以上の歴史がある名産菓子店が大きなダメージを受けている。店は過去の地震でも工場が半壊し、今回、大規模な火災が起きた「輪島朝市」の近くに移転してきていた。代表商品の「柚子(ゆべし)」に加え、新たに生まれた「輪島プリン」も地域を代表する人気商品に育っていた。厳しい状況のなか、避難所で商品を配っていた社長は「伝統の技を絶やすことはできない」と語った。

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「最初はいつもの地震かと思っていたのですが、次第に激しくなり、タンス、テレビと倒れていって身を守るのが精いっぱいでした。映画のワンシーンの光景が現実に起きていました」
 
 地震が起きた瞬間についてそう振り返るのは、輪島市で「柚餅子総本家中浦屋」を経営する中浦政克さん(60)だ。

避難所で大量のお菓子を配る社長

「地震があって、外に出ると周囲の店や家屋が倒壊していました。店や工場が心配でしたが、津波警報が出たというので家族で避難しようと家を出ました。倒れた家屋が多く、道はふさがれていたので車はあきらめて徒歩で高台の一本松公園へ向かいました」

 記者が大火に見舞われた「輪島朝市」を取材していると、中浦さんは、避難所や店舗で、大量のプリンや和菓子を被災者に無料で提供していた。
 
「正月用にと、和菓子やプリンを普段より多く製造していましたが、このままだと賞味期限切れになるので、おいしい間にみなさんに食べてほしいと思い、朝市通りで配ったり、避難所に持っていったりしました」

 計5千個の和菓子とプリンは、原材料なども含めると約500万円の損害になるというが、「命が無事だっただけでもありがたいです」。

 中浦屋は1910(明治43)年創業の老舗和菓子店で、中浦さんは4代目。店の名物は郷土菓子の柚餅子だ。柚子の中身をくりぬき、もち米を詰めて何度も蒸す工程を繰り返す。その後、半年間も自然乾燥させてようやく完成する。輪島塗とともに輪島を代表する名菓として知られている。

輪島の伝統の菓子「丸柚餅子」
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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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「うちは災害と切り離せない」