佐藤優氏と伊藤賀一氏(写真:朝日新聞出版写真映像部・東川哲也)
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 長引くウクライナ戦争、イスラエルとハマスの紛争、民族紛争、格差、生成AI……。新たな課題にどう立ち向かうべきか、かつてないほどその重要性は高まっている。そうした中で役立つのが、過去の思考の鋳型について知ることだ。「日本一生徒数の多い社会科講師」と評判の「スタディサプリ」講師・伊藤賀一氏と作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏がタッグを組み、西洋哲学が実生活でどう役に立つかについて語り合った。両者による共著『いっきに学び直す 教養としての西洋哲学・思想』から一部抜粋・再編して紹介する。

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世界のエリートと競うのに必要かつ十分な「倫理」の知識

佐藤優(以下、佐藤):2022年2月24日から世界各地で生じている事態は、一般に考えられている以上に、大きな変動の始まりだと私は見ています。ロシアとウクライナの戦争、そして、2023年10月7日に始まったパレスチナ・ガザ地区でのイスラエルとハマスの衝突が深刻度を増しています。しかしこれを「第三次世界大戦」にしてはいけません。

 歴史を振り返れば、時代が大きく変化したのは、18世紀末からのナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦によってです。世界の構造が大きく変わりつつあるときに、時代がどのように動いているのかを知る際に、思想の力がとても重要です。ただ、思想や哲学の力というのは、それまでの知識の積み重ねの上に成り立っています。しかも、近代以降の世界を基本的につくっているのは西洋ですから、西洋哲学に関する知識がかつてなく必要で実用性を持っていると私は考えます。

伊藤賀一(以下、伊藤):そのとおりです。

佐藤:なぜ、「日本一生徒の多い」と評判の伊藤先生とこの本を作ろうとしたかと言うと、多くの人にとって集中的に勉強したのは受験のときだからです。それも西洋哲学を学ぶ科目は「倫理」であって、英語や数学、歴史と比べるとかなりマイナーです。ところが高校の倫理というのは、大学院レベルの学習内容までカバーしているところがあって、ここの基本知識があれば、世界のエリートと競っていくときに必要かつ十分だと私は思っています。だからそれを伊藤先生と一緒に勉強していく。その過程を読者と共有することで知識をつけていってもらえるのではないかと考えました。

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「こういう視点があるんじゃないか」ということを加えていくと面白い本になる?