佐藤優・伊藤賀一『いっきに学び直す 教養としての西洋哲学・思想』(朝日新聞出版)
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 私は作家であると同時に、インテリジェンス(情報)を専門とする実務家です。国際情勢や現実政治を内外から日常的に見ている立場からコメントできます。だから、伊藤先生が教科書で教える西洋哲学や思想の基礎的な話をされる中に、私から現代的な意義とか、「こういう視点があるんじゃないか」ということを加えていくと面白い本になるんじゃないかと思ったんですよね。

理系のほうが西洋哲学を知っている?

伊藤:私は基本的に受験指導をしているので、従来のセンター試験にあたる「大学入学共通テスト」ではどんな出題傾向があるかとか、教科書や図説資料集の内容については一通り頭に入っています。ですから、自分の強みというのは、「教科書どおりである」ということです(笑)。学校や塾・予備校で学んでいる生徒さんたちは、教科書に出ている順番に沿って、そのボリュームで学んでいる、いわば教科書に忠実と言えます。

 ただ、非常に大きな問題があるのが、そもそも「倫理科目を選択していない」という生徒さんたちが多いことです。令和6年度でいえば共通テストの英語の受験生が約45万人で、倫理を少しでも使う生徒さんは約4万人しかいません。日本史や地理はそれぞれ13万人以上なのに、です。佐藤先生がおっしゃったように、かつてないほど必要な基礎中の基礎である科目なのに、高校のときに選択していなかったから、ということで倫理(哲学・思想)を完全にスルーしてきた大人がメチャクチャ多いのを、残念に思います。

佐藤:伊藤先生が担当している「スタディサプリ」の倫理の授業を見ると、ギリシア自然哲学とソフィストにそれなりのウェイトを置いていますね。これは柄谷行人さんが『哲学の起源』(岩波現代文庫)の中で、「ソクラテス以前の哲学」を非常に重視していることと平仄(ひょうそく)が合っている。やはりきちんと理解しないといけないのは、ソクラテス以前の自然哲学者、そしてソクラテスであり、プラトンであり、アリストテレスです。そして、その後のヘレニズム思想やストア派、エピクロス派、さらに「ゼノンのパラドックス」といった古代ギリシア哲学の発想です。こういった基本的なところから押さえておかないといけないので、まずこの本では、「古代ギリシア思想」(第1章)に重要な部分がきちんと入っています。これは逆説ですけども、共通テストにおいて、倫理と政治・経済を選択する人は、理系のほうが多い。これは私が教えている同志社大学の学生たちに聞いてもそうだと言います。

伊藤:そうですね。

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理系のほうが西洋哲学を知っている逆転現象