●大卒者の割合は渋谷区と足立区で実に「2倍の格差」

 まずは、【図表1】をご覧いただきたい。これは文部科学省の『学校基本調査』による、2014年3月の高校卒業者の大学・短大進学率(以下、「進学率」と略称する)を、東京23区別に記したものである。なお、データは高校の所在地ベースでの集計であり、居住地別の集計ではないが、大きな傾向は両者に共通していると考えていいだろう。
 
 図を見て最初に目を見張るのは、トップの渋谷区と最下位の足立区との間におよそ2倍の差があることではないだろうか。今や、「大学全入時代」と言われる。一部のエリート校は別にして、望めばほとんどの人が大学に進学できる。にもかかわらず、狭い東京23区では進学率に大きな格差が存在しているということがわかる。

 ちなみに、47都道府県の最下位は沖縄県の37.7%。ただし沖縄県には離島のハンデがあることはご存じのとおり。琉球大学など県内に大学はあるにせよ、そのキャパは限られており、県外の大学に進学しようとすれば、どうしても親元を離れての生活を強いられる。周辺に多くの大学が存在するはずの足立区の進学率は、その沖縄県と大差がないのだ。

 改めて大学・短大進学率ランキングを見ると、渋谷、千代田、港、文京、杉並などのいわゆる「ブランド区」が上位を占めていることがわかる。一方、進学率が低い方には、足立、葛飾、荒川、大田、台東と、東京の東部、あるいは下町の各区が並ぶ。

 いったい、なぜこのような「格差」が生じるのだろうか。このランキングを見るとき、考慮してほしい事実がある。それは、私立高校と公立高校では進学率に大きな差があることだ。23区内では私立高校は特定の区にかなり偏在して存在している。そして、2014年3月卒業生の23区平均進学率は、私立の76.3%に対し、公立は50.4%にとどまっている。

 また、大学側が立地に対して強いブランド志向を持つことについては、拙著『23区格差』で詳しく記した。2013年に文系学部を渋谷に回帰させた青山学院大学然り、八王子移転の先鞭を切ったものの、一転法学部の後楽園(文京区)移転を目指す中央大学然り。これらの動きは、少子化が進むなか、やむにやまれぬ大学の先祖返りを物語っている。

 過去30年以上にわたり、東大合格者数のトップを走り続ける開成高校は荒川区にあるが、基本的には有名私立高校も、大学と同様、高ブランド区に集まっている。このため、所在地ベースで見た高校生の進学率は、ある程度、街のブランドの高低と連動していることがわかる。

 ならば公立高校に限ると、その差は縮まるのだろうか。トップはダントツで目黒区の78.5%。最下位の葛飾・荒川両区は29.0%。両者の開きは実に3倍にまで達する。21位の足立区(29.8%)も、目黒区との差は2.5倍を超える。むしろ公立高校の方が、その差は広がっている。この事実からは、私立高校の集積だけでは説明できない、より構造的な「進学格差」が存在していることがうかがえる。

●大卒者は中心部、短大卒者は西部、高卒者は東部に多い23区の学歴構成

【図表2】に、2010年の『国勢調査』の結果に基づく23区の学歴構成を示した。それぞれ上下7区ずつをピックアップしたが、大きな構造はこれで理解することができる。なお、大卒(大学院を含む)と高卒は男女間に大きな差がないことから、男女の合計値を記した。一方、短大卒は圧倒的に女性が多いことから、女性だけに限って記している。

 このデータを目にすれば、各区が存在する場所に伴い、大きな差が生じているのが一層際立ってわかるのではないだろうか。大卒者の割合は中心区で高く、山の手住宅区がこれに次ぎ、東部各区が低い。これは所得水準の構成とほぼ一致する。「高学歴と高所得」は深く結びついていることを示している。

 逆に、高卒者の割合は東部で高く、中心部で低い。一方、短大卒は西部山の手地区が上位を独占する。こうして見ると、大卒の中心部、短大卒の西部、高卒の東部と、東京には相当根の深い学歴階層社会が形成されていることがわかる。

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