訪日時のチャールズ皇太子とダイアナ妃

 英国に出発する前、天皇陛下は皇居で記者会見し、こう語っていた。

「(先の大戦で日英も戦火を交えた歴史は)誠に残念なこと。過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切ではないか。(現在、英国と良い協力関係にあることは)戦争の傷を癒やすために両国の人々が地道に積み重ねた努力があったことを忘れることはできません」

英国へおかえりなさい

 1998年、上皇ご夫妻が訪英した時、筆者は沿道で取材していたが、第2次世界大戦時に旧日本軍の捕虜となった元英兵らが赤い手袋を空に突き上げて抗議していた。今回、同様の事態がなかったことは、上皇ご夫妻はじめ、多くの人の平和を願う気持ちがあったからこそだろう。

 夜はバッキンガム宮殿で晩餐会が開かれた。ガーター勲章を授与された天皇陛下は国王の隣に、菊のティアラが美しい雅子さまはカミラ王妃とウィリアム皇太子の間に座った。

 国王のスピーチは「わが英国へ、おかえりなさい」から始まるあたたかいものだった。特に過去の戦争に触れることはなく、ジブリやポケモン、ハローキティなどにも触れるなどユーモアたっぷり。時折笑いの起きる楽しさで、皇室英王室の変わらない友情をたたえた。

 一方、天皇陛下はスピーチで今回の招待に感謝するとともに、「日英両国には友好関係が損なわれた悲しむべき時期があった」と過去の戦争に触れ、「祖父、父の思いを継いでいきたい」と語った。

 両陛下ともに留学経験のあるオックスフォード大学への再訪も叶い、日英の友情はさらに固く結ばれたようだ。これからも様々な分野で互いに協力して歩むことを誓った未来志向の訪英だったのではないだろうか。(ジャーナリスト・多賀幹子)

AERA 2024年7月8日号より抜粋

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多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

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