イカ王子――東日本大震災後、岩手県宮古市の水産加工会社「共和水産」代表取締役専務の鈴木良太さん(42)はそう名乗り、自ら王冠をかぶってテレビや新聞にたびたび登場した。「イカ王子」の存在は知れ渡り、甚大な被害を受けた町も活気を取り戻しつつあったが、今、日本は過去最悪の不漁に見舞われている。資金繰りが悪化する水産業者が続出し、「共和水産」も昨年10月に民事再生法の適用を申請した。だが鈴木さんはそんな状況でも“再生”の道を諦めなかった。何度転んでも立ち上がる「イカ王子」の一代記。
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「6月になってやっとスポンサーが見つかり、ようやく事業再生の道が開かれました」
岩手県宮古市の水産加工会社「共和水産」代表取締役専務の鈴木良太さん(42)は、そう言って胸をなでおろす。
東日本大震災で大きな被害を受けた宮古を立て直そうと、鈴木さんは自ら「イカ王子」と名乗り、イベントや営業に奔走してきた。メディア出演の話があれば、金色の王冠をかぶりイカのTシャツを着て登場し、地元の水産品をアピールした。とにかく目立って宮古の水産業の“広告塔”になればいいと思いながら活動してきたが、最初は「30代の大人が何してるんだ」「DJ魚屋かよ」など心無い批判も浴びた。
それでも「本当においしい宮古の水産物を味わってほしい」という一心で活動を続け、宮古の新鮮なタラを使った「王子のぜいたく 至福のタラフライ」を開発すると、ネットの通販サイトで最長3カ月待ちとなる人気商品となった。少しずつ宮古の復興も進み、町にも活気が戻りつつあったが、その一方で、日本全体は記録的な不漁に悩まされていた。