今でも「イカ」への愛着は強い(画像=本人提供)

スポンサー探しに走り回る

「毎日、暗闇の中を歩いているようでした」

 鈴木さんは当時をこう振り返る。民事再生前は48人いた従業員も雇用継続が難しくなり、30人が退社した。

「SNSではわざとポジティブな投稿もしていましたが、家に帰ると寝られない日もありました。寝たら寝たで、いつまでこの悪夢が続くのかとうなされていました。外に出るのが怖くなった時期もありましたね。でも、震災復興で学んだ教訓は『立ち止まってはいけない』ということ。またできることをひたすら取り組んでいこうと決意しました」

 それから約8カ月。「共和水産」は6月20日に開かれた債権者説明会で、東京都大田区にある総合商社に、海産物の仕入れや加工、販売を行っている2工場を譲渡することを発表した。総合商社との取り決めで、経営権は譲渡することが条件だった。

 念願のスポンサーは見つかったものの、鈴木さんは大半の従業員を解雇することになったことはまだ悔いている。

「会社が倒産の危機にあるなかで、最後までこの会社で働いてくれたことに感謝しています。同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいです。本当にごめんなさい」

 そしてこう続ける。

「債権者の皆様には謝罪の気持ちでいっぱいです。誠に申し訳ございません。18人の従業員の雇用を守ることができたことだけはよかったと思っています。これでようやく事業継続も可能になります。民事再生の申請中は、クレジットカード決済も受け付けできなくなってしまい、ネットでの販路も絞られていました。これからは、私はいち従業員として働きます。イカ王子を続けられるか、王冠もかぶれるのかまだわかりませんが、どんな立場であれ、これからも宮古を盛り上げいくことに変わりはありません」

 たとえ王冠でなくても、鈴木さんの頭上には「希望」という光が輝いている。

(AERA dot.編集部・板垣聡旨)

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