友野は、高橋が演じるカケルの少年時代と、自らを犠牲にして家族を助けた青年を好演。多様性を体現する役を演じた島田は、競技プログラムでみせる端正な滑りとは異なる鮮烈な印象を残した。体を使う表現に長けたフィギュアスケーターは、声も使ってストーリーを演じる時には別の魅力を発揮することを、彼らが証明したといえる。
友野と島田は、高橋がスケーターの進路の選択肢を増やしたいという思いを込めてプロデュースした「滑走屋」を共に創り上げた同志でもある(島田は体調不良により出演をキャンセル)。そのスケーター達が、高橋という特別な存在によって成り立つ「氷艶」で、エンターテイナーとして新たな武器を身につけつつある。その先には、高橋の夢であるという、アイスショーのカンパニーの姿があるようにも思える。
高橋が扮するカケルは、公演まで1カ月を切った時点で代役を引き受けた大野拓朗が演じるトキオと共に、銀河鉄道の旅を最後まで全速力で駆け抜けた。フォークデュオ「ゆず」の曲に乗って展開した今公演は、終盤に登場したゆずの圧倒的な生歌唱で大団円を迎えた。
「氷艶 hyoen 2024 -十字星のキセキ-」では、プロスケーターとして新たな道を切り開く高橋と、共に走る同志の“全力滑走”を観ることができる。(文・沢田聡子)
沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。フィギュアスケート、アーティスティックスイミング、アイスホッケー等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。2022年北京五輪を現地取材。Yahoo!ニュース エキスパート「競技場の片隅から」