実は、徒歩避難への方針転換の理由は道路渋滞の懸念だけではない。重要なポイントは、比較的短い距離を徒歩で移動したほうが確実に安全地帯に到達できることが明らかになったことである。

「さまざまな地点での噴火を想定してシミュレーションした結果、溶岩の流れ方が非常に明確になりました。溶岩流は富士吉田の市街地を流れる際も広がることはなく、限定的ですから、溶岩が流れてきてもむやみに遠くへ逃げるのではなく、溶岩流と直交する方向にちょっと移動するだけで十分に安全を確保できます」

 その富士吉田市の場合、市街地からわずか3キロほど南の東富士五湖道路付近で噴火が起こる可能性がある。しかし、「市街地全域が溶岩流に覆われるような事態はおよそ考えられません」と藤井さん。

 溶岩流のシミュレーション結果を示した「ドリルマップ」を見ると、溶岩の流れはまさに川のよう。一方、その岸辺に移動するように数百メートル、遠くても1キロほど離れたところまで歩けば比較的安全な場所に到達できることもよく分かる。

「なので、溶岩流が3時間以内に到達すると予測された市街地であっても、健常者であれば徒歩で十分に安全に避難できます。一方、高齢者や要介護者については優先的に車を使っていただき、確実に避難していただこう、という方針になったわけです。住民が避難した場所では空き巣防止など治安対策も必要になりますから緊急車両が通行できる道を開けておくことも必要です」

 渋滞の恐れのない市街地以外では従来どおり、車での避難となる。

「地域ごとのドリルマップは県のホームページに掲載されています。それを見ていただければ、自分に影響する溶岩がどう流れてくるか把握でき、最短時間で効率的に避難することができます」 

御嶽山とは異なる富士山の噴火

 さらに、中間報告書は大きな噴石や火砕流などへの基本対応も示している。これらは溶岩流とは違い、発生後に避難することが困難なため、噴火前に想定火口範囲周辺から逃げておく必要がある。

 だが、2014年に御嶽山(岐阜、長野県境)で起こった突然の噴火では死者、行方不明者63人と、戦後最悪の火山災害となった。コロナ前、富士山には毎年約25万人の登山者が訪れていた。噴火の予兆をとらえられず、御嶽山と同様の事態とならないだろうか?

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御嶽山の噴火は水蒸気噴火