「十和利山クマ襲撃事件」で第1、第3、第4の犠牲者を殺害したとみられる体重84キロ、体長150センチのオスグマ「スーパーK」=米田一彦さん提供

人肉の味を覚えたクマの危険性

 クマは慎重な習性で、人を襲うことはめったにないとされる。だが、人肉の味を覚えて人間を食べ物とみなすようになれば話は別だ。そんな人喰いクマが複数出てしまえば、山中の危険はさらに増す。

「ところが、第1犠牲者の遺体に食害があったという情報が自治体と共有されなかった。知っていたのは、遺体を収容した消防団と猟友会、検視を行った警察だけ。地元の人々は複数の人喰いグマが徘徊していることを知らないまま、タケノコ採りに入山し、被害が拡大していったのです」

犠牲者は増えていった

 翌22日には、はやくも第2の被害者が出た。その男性が襲撃された現場は500メートルほどしか離れていなかった。

 25日には、第1、第2襲撃現場から北東へ2キロほど、大きな谷を隔てた沢筋にタケノコ採りに出かけた男性が「帰ってこない」と通報があった。その5日後、性別不明になるほど食害のある遺体が発見された。

「3人目の犠牲者の捜索は難航しました。切れ込んだ谷の急斜面にササが密生し、見通しが極めて悪い。クマと遭遇して二次被害が発生する可能性も高かった。その間、遺体は何頭ものクマに食われたのです」

 6月7日には、沢筋の事故現場から西へ500メートルほど離れた場所で女性が行方不明になった。10日朝に発見された遺体は、やはり性別が不明になるほど食害があった。

 同じ日の午後になって、遺体の発見現場付近にいたメスのクマが猟友会によって射殺された。解剖の結果、胃の内容物の6割はタケノコで、4割は人肉と髪の毛だった。「これで事件は収束した」という空気が流れたという。

だが、死者こそ出なかったものの、その後もクマによる被害は続いた。先の死者4人に加え、最終的に重軽傷者4人。「十和利山クマ襲撃事件」は、「三毛別ヒグマ事件」に次ぐ史上ワースト2の獣害事件になった。

「十和利山クマ襲撃事件」で第2犠牲者を殺害したとみられる体重120キロ級の子連れの赤毛グマ=米田一彦さん提供

人喰いグマは1頭だけ?

 ここに大きな疑問が残る。果たして、射殺されたメスのクマが被害者4人を殺したのか? 遺体を食べたクマはその1頭だけだったのか。

「重大な人身被害が発生した場合、加害グマを特定して除去し、さらなる被害を防ぐことが重要です。ところが、4人の死者が出たにもかかわらず、この事件では加害グマの特定が行われなかった」

 そう米田さんは忸怩たる思いを語る。

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