弁護士に付き添われて車に乗り込んだ水原氏=5月14日、長野美穂撮影

 え? 私たちは水原氏が罪状認否する瞬間を直接見ることができないということか。その瞬間、どよめきの声が上がった。

「突然、どうしてですか? 理由は?」「法廷内の様子は映像で見せてもらえるんですか?まさか音声だけってことはないですよね?」

 すると男性係員はこう答えた。

「これは担当判事が決定したことだから」

 きょうの担当判事の名前はジーン・ローゼンブルース。彼女はいわゆる微罪判事という立場であり、重罪の案件を扱う権限がないため、今回は形式的に「無罪」発言が水原氏から出るだろうと予想されていた。

 このローゼンブルース判事は、地元LAの南カリフォルニア大学のロースクールを卒業する前は、ロサンゼルス・タイムズ紙の音楽欄担当記者で、ローリングストーン誌にも寄稿した経歴を持つ。その後、LAで連邦検事補を務めた後、母校で大学教授になり、2011年に現職に転身しているのだ。

 つまり、かつてジャーナリストだった判事が、50人近いジャーナリストを別室に押し込めて、直接取材させないようにしているということーーなのか?

「こんなこと、あっていいはずがない」

 隣に座っていたステファニーはそう言い、取材ノートを席に置き「ちょっとこの席取っといて。エディターに電話してくる」と言い、バックパックを抱えて出て行った。

 しばらくして戻ってくると、ステファニーはいきなり取材ノートの紙をひきちぎり始めた。

「ちょっとペン貸して」と言い、筆者が黒ペンを差し出すと、背中を丸めて一心不乱に何かを書き始めた。

「何それ?」

「プロテスト(抗議文)だよ。法廷を傍聴するのは市民やジャーナリストの権利。それを剥奪するなんて、裁判所が明確にルール違反している。断固、異議申し立てしないと」。

 彼女がノートの紙に書いた文章はこうだ。

「2024年5月14日

 私たち、プレスのメンバーは『合衆国vs.水原』の審理の際に、別室に押し込まれた決定に異議を申し立てます。これは公の機関である裁判所の公判プロセスに明確に違反するものです。しかも、私たちは事前に異議を唱える機会を封じられたまま別室に入れられました。メインの法廷に、私たちが入室許可されることを要求します。

 ステファニー・ダジオ AP通信」

 すると彼女は立ち上がってこう言った。「ちょっと皆聞いて。私の名前はステファニー、AP通信の記者です。今から裁判所の処遇に反対を表明した抗議文を回します。賛同する人いますか? いたら署名してください」

 すると部屋から「いいぞ!」「署名するよ」と歓声が上がった。

 ステファニーは抗議文を報道陣全員に向かって読み上げると、その紙を私に手渡した。

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