「大事なのは、道路を広げ両側に不燃建築を建てる延焼遮断帯を設けたりして、本来あるべき街のビジョンを被災者とともに描き、経済的な間接被害もゼロに近づけること。それが事前復興の最大の目的です」
災害に強い街へ
そのためには平時からどのような街を目指して復興させるか、住民と自治体と専門家が一緒に話し合い、共通認識を持っておくことが重要。そうすることで被災直後から復興がスムーズに進み、住民とともに災害に強い街への復興を進めることになる、と中林名誉教授は言う。
「復興が遅れて仕事を失ったまま、先が見えなくなり自死される人もいます。事前復興によって、今すぐはできなくても目指すべき街のビジョンが共有されていれば、それが『合意』なのです。そして災害関連死をなくすことも期待できます」
各地で地震が起きている今、事前復興の重要性は増している。東京都は22年に公表した長期防災計画「TOKYO強靱化プロジェクト」にも、事前復興の考え方を盛り込んだ。南海トラフ巨大地震の被害が想定されている自治体でも、事前復興の計画をつくる動きが進んでいる。中林名誉教授は言う。
「被災地だけでなく被災者も復興できなければなりません。私たち一人ひとりにできる事前復興があります。地震保険に入ることです。統計的に、地震に遭うことなく命を全うする人の方が多くいます。しかし毎年、全国どこかで被災した被災者が地震保険を活用しています。つまり、地震保険は掛け捨てではなく、義援金の前払い『共助』『互助』の事前復興なのです」
地震大国ニッポン──。
命を守り、被害を最小限に食い止めるには、国や自治体、そして私たち一人一人の取り組みが不可欠だ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年5月20日号より抜粋