横尾さんに抱かれるパソコ/横尾さん提供

こころの世界に、猫もいる

 「霊性」とは何だろう。かみ砕いて言うなら、「目には見えない、こころの世界」というべきか。横尾さんの創作活動を貫くもので、横尾さんは常に、「こころに浮かんだことを、そのまま描いている」という。

 そして、そのこころの世界に、もいる。横尾さんのこころの世界に、猫は深くかかわっている。

 横尾さんは、自他ともに認める猫好きだ。いま、自宅には「おでん」が、事務所には「パソコ」と「ツートン」の2匹がいる。3匹はきょうだい猫だ。横尾さんは、猫たちとは、目と心と感情でいつでも会話できる。それは、猫たちが生きる霊性の世界に、自身も重ねて生きているからだ。

横尾さんに抱かれるツートン/横尾さん提供

愛猫と横尾さんはつながっている

 そんなふうにこころがつながっているから、横尾家の3匹の猫たちは、園遊会雅子さまに見せてもらったたくさんの猫写真のことは、百も承知なのだという。その写真の受け止め方は、「幸せな猫たちね」なのか、「カワイイ猫ね」、それとも「ふん、私の方がカワイイわよ」なのか、猫それぞれに違いない。

 3匹の猫たちにとって、横尾さんは飼い主でも、ご主人でもない。同居人だ。一方、横尾さんにとって猫は「必需品」。いることが当たり前で、気分をあげてくれる大切な存在であり、猫への愛情は生半可なものではない。ただし、〝猫かわいがり〟は決してしない。精神感応で通じあっているから、霊性の世界でつながっているから、特別な愛情を示す必要はないのだ。

パソコ、おでん、ツートンが勢ぞろいした1枚/横尾さん提供

「猫のように生きてください」

 猫たちは横尾さんの存在を感じるだけでうれしくなる。横尾さんが事務所に足を運ぶときには、横尾さんが表れる前からパソコとツートンはそわそわし、事務所のドアを開けた瞬間に、ワッと寄ってくる。

 そんな霊性の世界で、横尾さんと長く暮らしていたのが、タマなのだ。横尾さんは、タマに愛情を注ぎ、たくさんのタマの絵を描いた。2019年に亡くなったタマは、横尾さんに一つの願いを託したという。

「どうぞ、猫のように生きてください」

 それはつまり、頭だけで考え過ぎず、こころのままに、自然に流れるように生きていくこと。横尾さんはタマの言葉通り、猫のように生きている。

「ぼくはね、もうすぐ88歳で、おでんは13歳。おでんにはあと10年は生きてほしい。だから、僕も猫のためにも長生きしようと思っているんですよ」

 そう言って、横尾さんは目には見えない猫の背中をなでた。

(ライター・鮎川哲也)

横尾さんと在りし日のタマ(横尾さん提供)
横尾忠則さんは、タマの願い通りに生きているという
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