本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

 【鴻上さんの答え】

 教員は楽しいよさん。まあ、すごいペンネームですね。これは、本当に教員は楽しいと思っているのか、それとも、昨今、減り続ける教員志望の若者に対してのエールなのか。

 どちらにせよ、少し長いので教楽さんと呼びますね。お、なんだか落語家さんみたいになりました。

 確かに僕は、教楽さんが書かれるように中学・高校のブラック校則に対して文句を言っていますが、小学校に対してはあまり発言していません。

 それは、僕自身、一番納得できず、葛藤し、悩んだのは、中学・高校時代だったからです。

 小学校は、公立の平均的な学校でしたが、細かな規則に縛られたという記憶はありません。時代だったのかもしれません。教楽さんが書くような、筆箱も消しゴムも比較的自由でした。まだ、そういうものを規制するという発想がなかったのでしょう。下敷きも筆箱も消しゴムも、好きなものを持ち込めました。(シャープペンシルは禁止でしたね。あと、その時その時で、異様に流行ったものは禁止になりました。なんとかカードとか特殊なオモチャとかですね)

 さて、教楽さん。僕が小学校の「約束(規則)」に関してどう考えているのかということですね。

 2019年夏、僕のX(当時はTwitter)がものすごくバズったことがありました。それは、小学生が多く出演するミュージカルのオーディションをした時に、演技して、ダンスして、歌っているのに、小学生達は待機場所の椅子の足元に置いてある水筒の水を誰も飲まないことを不思議に思った出来事を書いたものです。

 僕が「みんな、水飲んでいいんだよ」と言うと、50人ほどの小学生が一斉に飲み始めました。我慢していたのでしょう、ガブガブと必死で飲む子供が多くいました。

 僕はあんまり不思議だったので「君たち、ひょっとして、学校では先生が飲んでもいいって言わないと飲んじゃいけないの?」と聞くと、いろんな小学校から来た50人ほどの小学生は同時にうなづきました。ほとんどが小学校5、6年生でした。

 その姿があまりに衝撃で、僕はツイートしたのです。僕のTwitterでは、自分史上最高の800万インプレッションがつきました。まあ、800万回、見られたということですね。

 で、そこまでバズると、当然、賛否両論、誹謗中傷、嘲笑冷笑、揶揄激怒が押し寄せるわけです。

「自分勝手に飲んでいいなんてしたら、授業が大混乱になるだろう」とか「先生の言うことを聞くのは当たり前」とか「子供はいつ飲んでいいか分からないんだから、教師は指示するのが仕事」なんて意見がきました。

 その中で、僕が一番、ほおっと納得したのは、長年ボーイスカウトに関わっているという人からの書き込みでした。

「長年ボーイスカウトに関わっている私の経験では、小学校低学年は、こまめに『飲む』声かけをした方がいい。遊びや作業に夢中になって忘れることがあるからだ。だが、小学校高学年になると、自分で飲むタイミングを見つけるように指導した方がいい。高学年にはそれができるし、それが自分自身の体を守る意識にもつながる」というような書き込みでした。(昔のツイートなので、記憶を頼って書きました)

 僕がそもそも、中学・高校のブラック校則に対して、何十年間も抗議を続けているのは、そういう規則は、生徒から、「自分の頭で考える能力を奪う」と思っているからです。

 リボンの幅や髪形や髪の長さや下着の色などを細かく規定した規則の遵守を求める時に、「その理由は?」と問う生徒に対して、「中学生らしくない」とか「高校生らしくない」と答える大人がいます。

 では、「『中学生らしくない』『高校生らしくない』とはどういうことか?」と問えば、「華美でない服装のことだ」と答えます。「華美でないとはどういうこと?」と問えば、「『中学生らしい』『高校生らしい』ということだ」と返します。

 コントなら秀逸ですが、現実です。

 つまりは、「その定義は言葉にできない。教師の言っていることを受け入れろ。自分の頭では考えるな。それが規則だ」ということをメッセージとして伝えているのだと思います。

 僕は、ただ反発したいとか、反抗したいと中学・高校時代に思っていたのではありません。納得したいと思ったのです。「どんなに寒くてもマフラーを着けて登校してはいけない」のは、こういう理由なんだと納得できればそれでよかったのです。でも、そんな言葉は教師からは、出てきませんでした。

 ただ、「規則だから」とか「昔からだから」とか「我が校の伝統だから」とか「一人一人が自由なことをしたら、大変なことが起きるから」と言われて、一人一人が自分の頭で考えることをやめるように強制されたのです。

 そして、そういう習慣を持った大人が大量生産されていると思っているのです。

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