
「すると、変化を受け入れる自分の心の余裕ができ始めました。22年から、ようやく自分の合点がいく動きができるようになり始めたんです」
23年7月の世界選手権。100メートル平泳ぎで1分6秒20を出した。実に14年ぶりの自己ベスト更新だった。
戦略変更も効いた。50メートルに焦点を絞った練習内容を増やしていた。
「50メートルのトップスピードを100メートルに生かすことに焦点を当てました。今までやってきたことは間違ってなかったなって。年齢を重ねたからこそ、継続は力なんだと思いました」
今年3月のパリ五輪選考会では、100メートル平泳ぎで1分5秒91と自己記録を更新。200メートル平泳ぎでも代表に選ばれた。
「昨年から調子はいいし、スピードも維持できてる。練習の成果を、代表選考会の決勝で出すことができるはずだっていう自信しかなかったです」
もうひとつ、鈴木の背中を押したのは4月に現役引退を表明した入江陵介だった。
「代表選考会で、入江さんの200メートル背泳ぎ決勝での最後の力強い泳ぎを見た後が、私のレースだったので、『入江さんが頑張ったんだから私も頑張らなきゃ』という思いだけで泳ぎ切りました」
レース後には涙があふれた。
「200メートル平泳ぎは最後の25メートルは表現できないぐらいしんどいんですけど、ど根性を出して、現状の最大限の力を出し切ることができました。タッチして上がった瞬間から感極まっちゃって、泳ぎ終えた安心感と、もう入江さんと一緒に五輪に行けない寂しさと、入江さんから力をもらえた感動とが混ざって涙しました」
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2024年4月29日号-5月6日合併号