災害発生時の住民はどこも同じで、パニックに陥るのが常。現行の避難ルールでは、緊急事態に、まず原発から5㎞圏内の住民が優先的に避難し、その外側の住人は自宅待機することになっている。しかし隣の地区の住民が避難しているのを見て、家に留まることなど出来るのだろうか。そんなルールがなかった福島第一原発の事故では、かなりの数の住民が原発構内にいた家族、友人知人からの携帯電話やメールによる連絡で、町の防災無線による避難指示が出る数時間前にその地域からマイカーで脱出していた。自治体の策定している避難計画や、国や電力会社の決めている事故拡大防止のための支援体制や支援計画は絵に描いただと言わざるを得ない。

福島第一原発事故、実はベストコンディション下で起きていた

 地震はいつ、どこで、どんな状況で起きるのか予想がつかない。季節、曜日、時刻はもとより、その日の天候、風向きも千差万別だ。

 こうした点で福島原発事故は、季節は春、平日の昼間、天気も穏やかという環境下で起きた。そして、原発構内には数千人の作業員もいた。事故対応する側としては、ベスト・コンディションで起きたことを忘れてはいけない。真冬だったら、休日だったら、深夜だったら…。一つひとつの条件が悪ければ、さらに悲惨な結果を生んだ可能性がある。

 今年に入って大きな揺れが日本列島で相次いでいる。マグニチュード 7.6の能登半島地震は元旦の16時10分に起きた。北陸電力本社はもとより、役所も民間企業も出勤していたのはごく少数で、被害の実態把握も救助活動も迅速には進められなかった。

 次の大地震などの自然災害がどうくるかは誰にもわからないが、対応については見直しを続けていくしかない。一方、どのようなことが原発の重大事故につながっていくかについて、いまも未解明な部分が存在することを技術者は否定できていない。だから原子力規制委員会の委員長は「安全審査にパスしたからといって安全だということではない」と言っているのだ。

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