持ち方に「正解」はあるのか

 電車内のリュックの持ち方に、もはや正解は存在しないのか……。帰宅ラッシュの車中で悶々と考えていると、偶然近くにいた3人の乗客がヒントをくれた。

 背骨を何かかたいもので小突かれ、振り返った先にいたのは、ヘッドホンをしてスマホの画面を見つめる若い男性。“前リュック”姿だったが、そのリュックから伸びた折り畳み傘の柄が、前にいた記者の背を押していたのだ。スマホゲームに夢中の彼は、まったく気づいていない様子だった。

 10分後。今度は膝裏に一定のリズムで何かが当たるので、ちらりと後ろを見ると、至近距離に目を閉じた中年男性の顔があった。仕事終わりで疲れているのか、立ったまま船をこいでおり、体が揺れるたびに手にさげたビジネスバッグが記者の足に当たっていたのだ。彼については、荷物が当たることよりも背中に密着されていることのほうが気になった。

 そして最後に隣り合ったのは、70代くらいの高齢男性。荷物は持っていなかったが、小脇にポテトチップスの袋を抱え、すごいスピードでポテチを口に運んでいた。空腹に耐えかねていた様子だったが、そばにいた若い女性は明らかに顔をしかめながら見つめていた。

“ちょっと迷惑”な彼らが教えてくれたのは、「荷物をどう持つかよりも、周りの様子に目を配るほうがずっと大切」ということ。マナーの本質である思いやりさえ忘れなければ、“前リュック”でも“手さげ”でも“荷物置き”でも正解だし、逆もまた然りなのだ。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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