しかし、なぜこんなに笑えるのだろう。そんなことを思いながら演出した玉田真也に話を聞いた。

「慶應大学の演劇サークルで別役実の戯曲に出会い、めちゃくちゃ魅せられたんです。1ページ読むごとに笑ってしまった。その中で出会ったのが『天才バカボンのパパなのだ』。これだったらいけるって」

 そう語る玉田は38歳。別役の孫世代で、もちろん「天才バカボン」も同時代的に読んでいない。

「僕はバブルが崩壊した後の世代です。いってみれば、ものごころがついた時から不条理だった。大企業に入れば何とかなる。そんな右肩上がりの昭和の話はフィクションでしかなかった」

 なるほど。つまり時代は巡り、玉田にとって別役の世界(=不条理)はより身近に感じられたわけだ。

「(登場人物が語り合う)セリフ一個一個が微妙にズレている」と玉田は言うが、彼はセリフのやりとりに一つの優しさを感じ取っていた。

「『(そこに)いてもいい』という言葉が登場するんです。巡査が笛を吹いて、『オイ、コラ!』って叱ると、上司の署長が『いてもいいじゃないか。ここはそういう普通の場所なんだ』と言う」

 アナーキーな笑いと、「そこにいてもいい」と許す優しさ。だから何度も観たくなるのだ。1978年に発表された別役実のこの戯曲は原作者赤塚不二夫公認だった。

(文・延江 浩)

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