「大海原に放り出された感じで、どっちに泳いだら岸があるのかわからない。でも、ちょっと泳いでいるうちに、なんて楽しいんだろうと思いました。どこにも引っ掛からなくていいし、何も拾わなくていい。おぼれ死ぬ恐怖はありつつも、好きな方向に泳げるのがうれしかったですね」
読者からの支持が厚い凪良さんだが、小説は自分のために書いているという。
「自分の中でぐっちゃぐちゃに散らかっている場所を掃除したり、整理したり、一つ一つ片付けていく作業に似ているんですよね。散らばっていたものを言葉にして、物語に組み立て直すと、自分の中の引き出しにきれいに収まってくれる。あの時は、本当はこうだったんだって、自分で再確認できることもあるんです」
話すのと違い、小説はじっくり考えて言葉を紡げる。それで内面が整理されていく。
「嫌な思い出とか苦しかったことはなくならないし、減りもしない。でも、収まりどころが見つかる。それは大事なことだと思うんです。ずっとぐちゃぐちゃのまま生きていくのはつらいから、書くことで少しずつ自分の中を整理、収納していきたいと思っています」
過去の全作品が見渡せ、凪良ワールドの入り口にもなるバラエティーブックだ。(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2024年4月22日号