大きな小麦粉の袋を買ってきて、よくパンを焼いてくれたという真菜さん。「すごく上手で、ちっちゃいパンなんですけど、食パンとかおいしいんですよ」と、松永さん。事故に遭った日、真菜さんと莉子ちゃんは買い物の帰りで、現場には小麦粉が舞っていたという(写真は2018年3月撮影/松永さん提供)

「桜を見ると切なくなります」

――命日はどのように過ごすのでしょうか?

 事故が起きた12時23分に現場に行って、手を合わせます。そしてお墓に行って、沖縄から来てくれる真菜のお父さんとお茶をしながら話をして、という感じですね。

 でも僕は、命日を迎えるまでのほうがしんどいです。当日は「来ちゃったものはしょうがない」とある程度割り切れるんですけど、命日の半月前くらいから、「嫌だな」「二人に会いたいな」ってどんどん気持ちが落ち込んでいきます。

 桜が咲きはじめると、三人で花見をした時の思い出がよみがえってきます。真菜が焼いてくれたパンでサンドイッチを作って、それを持って公園に行って、食べ終わったら莉子は楽しそうに公園を走り回って。そして桜が散ると、そろそろ命日がやってくるなって考えます。だから桜を見ると切なくなりますね。毎年、これは逃げられない。

 でも、無理に前向きにはならないようにしています。最初の1年は、「自分は大丈夫」「二人の命を無駄にしないためにもまだまだやれる」って言い聞かせていたんですよ。そしたら初めての命日、現場で手を合わせたら、事故の瞬間は見ていないのに、真菜と莉子がはねられる様子がフラッシュバックのようにすごくリアルに頭に浮かんでしまって、心が破壊されそうになって、2週間ほど起き上がれなくなったんです。

 それで、自分の感情にはウソをついちゃいけないんだと学びました。悲しいときは悲しんで、怒るときはちゃんと怒る。そして命日を迎えたら、受け入れた悲しみや苦しみを力に変えて、自分と同じような人を生み出さないための活動に生かしていこうと思います。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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