居間の一角が、莉子ちゃんのお絵描き場だった。紙の下半分には、家族3人で手をつないでいる絵が描かれていたが、インクの経年劣化により消えてしまったという。「物ってどんどん壊れていく。それを見るのが悲しくて、おもちゃのキッチンセットなんかも泣きながら解体したんですけど、やっぱりしんどくて」(松永さん)(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

初めて聞けた、飯塚氏の「本心」

――飯塚受刑者の一連の回答を、どう受け止めていますか?

 正直、回答なしという結果も想定はしていたんですよ。裁判で繰り広げられた彼の無罪主張には、法治国家における当然の権利とはいえ、苦しめられたこともあったし、あまり期待してまたがっかりするのは嫌だなと。

 でも回答を読んで、思いのほか真摯に答えてくれたという印象を受けました。もちろん文章は短いですが、92歳という彼の年齢を考えると、しょうがないかなと思います。報告書には、飯塚氏が、私の言葉について「妥当だと思う」、刑務所での面会や出所後の対談は「受け入れる」と言っていた旨が書いてありました。裁判での利害関係がなくなった今、初めて彼の本心が聞けて、同じ視点に立てたんじゃないかなと思います。

――今後の飯塚受刑者との対話で、どのようなことを聞きたいですか?

 再発防止に向けた僕の思いは分かってもらえたと思うので、今回の『はい』『やめていました』といった回答の先に、話を深めたいです。失敗した人の後悔にこそ、次の失敗の芽を摘むヒントがあるはず。社会制度、医療、交通環境、どんな視点でもいいので、『こうだったら事故を起こさなかった』という反省や悔しさを聞きたいです。世間の人は『言い訳するな』とたたくかもしれないけど、彼の言葉を封殺してしまうと未来の糧にできなくなるので、それはどうかやめてほしい。

 飯塚さんの年齢を考えると、一日一日を無駄にせずに、早く面会に行かなければと思います。ただ、真菜と莉子の命日の19日までは精神的にいっぱいいっぱいなので、今は考えるのをやめています。

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