一方、治療以外の目的での卵子凍結は、健康被害や、リスクの高い高齢出産の増加につながる可能性があることから、日本産科婦人科学会は「基本的に推奨しない」としている。未受精の凍結卵子を用いた胚移植での妊娠率は、決して高くないのも現実だ。

 こうした背景を理解した上で、卵子凍結するかどうかを考えるよう、都の助成金は説明会への出席を支給条件の一つに据えている。生殖医療に詳しい東邦大学医療センター大森病院産婦人科の片桐由起子教授は言う。

「卵子凍結は、いつそれを使って妊娠・出産するかという計画の中の、あくまで一ステップと捉えてほしい」

凍結は計画とセットで

 片桐教授の病院では、卵子凍結を検討する人が、問診票に妊娠・出産をいつ頃計画しているかを書く欄がある。特徴的なのが、どの年代の女性も「2年後ぐらい」と記入する傾向にあること。つまり、計画通りに進むかどうかは別として、遠くない未来に子どもを産みたいと望む女性が多い。片桐教授は、女性が35歳未満で、自然妊娠が望める場合、凍結より妊娠を先送りする原因を解決したほうが良いのではと提案することもある。

「卵子凍結は、誰しもに必要な技術ではありません。例えば30歳の人が、34歳ぐらいまでに産みたいのなら、凍結を急ぐより、パートナー探しに注力した方がいい場合もある。自分にとって必要な医療かどうかは、いつ頃妊娠・出産したいかという計画に関わってきます」(片桐教授)

 とはいえ、パートナー不在での妊娠・出産の計画は、雲をつかむような話でもある。卵子凍結に臨んだ女性たちからは、「自分一人で子どもを持つ選択ができる選択的シングルマザーが認められたら、卵子凍結よりはるかに少子化対策になると思う」という声も聞かれる。

「卵子凍結は、産むことを先延ばしにする人のための技術で、少子化対策を考えるなら、今すぐ産み育てようとする人への支援も大切。今後は子どもを持ちたいと願う人みんなが生殖医療にアクセスでき、生まれてくる子どもが幸せになれる環境をいかにつくるかを考える議論も必要になってくると思います」(同)

 凍結した卵子がどれほど使われ、出産に至るかが見えてくるのは、まだまだ先だ。未来に命の可能性を託す技術は、福音となるのか。行方を見守りたい。(フリーランス記者・松岡かすみ)

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